2009年1月26日月曜日

【論文】温度(変化)を使って鳴禽(メイキン)の運動回路にあるダイナミクス(の表象)を解析する

Using temperature to analyse temporal dynamics in the songbird motor pathway.
Long MA, Fee MS.
Nature. 2008 Nov 13;456(7219):189-94.


概要
鳥のHVC(ヒトの高次運動野と相同する領野)を冷やして活動を低下させ,その時の鳥の歌声の準音節,音節,モチーフの3つの系列長(timescales)で調べると,すべての系列長で音の構成は保たれたまま系列が伸張(ゆっくりと)していたという話.一方でHVCからの投射がある運動核RAを冷やしても,変化は見られなかった.これまで,異なる時間長毎に歌声のダイナミクスが制御されていることも考えられていたが,そうではなく,HVCがすべて時間長について制御しているのではないか,またドミノ連鎖的(domino-like chain)に歌声のダイナミクスを制御しているのではないかという論文.ここで「ドミノ」連鎖的とは,音要素(準音節,音節,etc)の離散系列のダイナミクスであることを表している,たぶん.

(Dynamicsにtemporalという意味は含まれているように思うのだけど,どうなのだろう.今回の場合,側頭という意味でもないだろうし.でもtemporal dynamics という言葉が検索でけっこうな数ヒットする.)


Figure 1
a.ペルチェ素子(Peltier device,冷却素子)でHVCを冷却している.またHVC,RAと間脳のUvaなど神経経路を表示.
b.ペルチェ素子に電流を流したときの,HVCの温度変化.白丸が電流の流し始め(onset),黒丸が停止(offset).
c.HVCとペルチェ素子の距離0.5,2,4 mmにした時の,電流とHVC温度変化のグラフ.実験では0.5 mmの条件を用いてHVCを冷却している.
d.この実験で主となる結果.9つの歌声系列が示されいて,上から電流を0.5,0,-0.25,-0.50,-0.75,-1.00,-1.25,-1.50 A流したときの結果.一番下は0 Aの系列を人工的に382%(1つ上の-1.50Aの系列の伸張分と同じだけ)だけ延ばし系列.HVCを冷却すると歌声の系列が,伸張していることがわかる.
e.温度変化と系列伸張度(Dilation)の関係.実験を行った10羽について.赤線はdのデータとして挙げたNo.3の鳥について.
d.eの結果の平均を出した図.


Figure 2
a.b.c.準音節,音節,モチーフの3つの系列長で温度変化と伸張度を表したグラフ.どれも温度低下で伸張していることがわかる.
d.abcの結果から,1度冷却する毎の伸張度をヒストグラムで表示したグラフ.どれも伸張しているのがわかる.
e.f.
このグラフに関わる考察は,Supplementaryも参照しないとわからない込み入った議論になっていて,音節時間,音節開始間隔,モチーフ開始間隔,無音時間について議論している.特筆しておくのは,無音時間もHVC冷却で伸張していると言うこと.それと前の音節が引き金となって次の音節が続いていくのではないかということで,これが議論でドミノ連鎖的(domino-like chain)に系列制御されているのではないかと言及につながっている.


Figure 3
運動核であるRAを冷却して音響系列に変化がないことを示している.
a.解剖図とペルチェ素子の挿入具合.
b.RAを冷却するととHVCも若干冷却されてしまう.cのグラフを,この結果をもとにHVC冷却効果を補正し,eの結果を出している.
c.HVC冷却効果の補正前,電流を流すと若干伸張している.
d.Figure 1.fにRA伸張の結果を重ね合わせた図.
e.cからHVC冷却効果考慮して補正(取り除く)した結果.冷却しても伸張度に変化がない.
d.伸張度のヒストグラム.同様に伸張していないことがわかる.


Figure 4.
RAはHVCからの投射があるのに,Figure 3のように音響系列に変化がない様子をニューロン計測をして観察した結果.温度変化とともに持続性の発火率は減少するのだが(図abc),バースト発火は温度変化にはよらず一定であり(図d),RAがHVCからの入力に頑健に反応していることがわかる.
a.はRAを冷却した時のニューロン発火活動をしめしていて,b.は1Aで冷却した時に冷却開始時を境に発火率が小さくなっている様子,c.も同様に冷却と発火頻度の関係を示した図.


Figure 5
脳の左右で伸張する音響系列の要素(準音節)が異なることを示している.dは左を冷却した時でBという準音節を伸張しているがAの要素には影響ない,逆にeは右を冷却した時だがAは伸張しBは変化がない.HVCの1つのニューロがすべての音系列要素の伸張にかかわっているわけではなく,集団符号化(Population coding)しているという結果.

Supplementaryの最後の図に1つのモデルとして提案されているが,HVCが系列を制御し,音節の区切りなどで適宜左右間で同調を行い,Uva,RA,DMとも通信を行っているというモデルを挙げている.
 

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