2012年8月10日金曜日

勝敗


何事も勝たなきゃ意味がないと思うけど,勝つだけでも意味がない.サッカー選手だったら,当然だけど,サッカーで勝ちたいわけ.じゃんけんで勝ったって嬉しくないわけで.そういう事を,さらに,つきつめて考えていくと,サッカーって何かって事を考えることになって,さらには好きなサッカーって何かって考えることになって,好きなサッカーで勝ちたいって事になる.

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大会で勝ち上がるほど,多くの人が見るようになる.見られる回数や見た人の人数が一番多いのは,勝ったサッカーだ.で,そうすると,勝ったサッカーがサッカーだって事になってしまう.もし,自分が嫌いなサッカーを自らして勝ってしまうと,その嫌いなサッカーがみんなにとってのサッカーになってしまうわけで,それって嫌だ.だから,好きなサッカーをしないと意味がない.

ただ,好きなサッカーをしたところで,見てもらわないと,世界に広まらない.勝たないと誰にも見てもらえないわけで,勝たないと意味がない.だから,勝つ事に意味がある.好きなサッカーで勝つ事に意味がある.

ところで,勝つ事は重要だけど,決勝戦だけは,勝敗は関係無い.勝っても負けても決勝戦はみんなが見ている.負けてもなお,見ている人達に最高のサッカーだったって思わせればいい.そうすれば,自分の好きなサッカーが,みんなにとってのサッカーになる.

今日の試合,みんながしたくなるサッカーをしてたのはどっちだったか.

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僕にとっては,研究がそう.

2012年6月12日火曜日

EURO2012


EURO2012の試合を見たいがためにWOWOWに加入したくもなったが,民放でやっているのを録画して,小出しに見るだけでも時間的にムリだと気づいてやめた.

4年前は全く見なかったけど,8年前のギリシャが優勝した時は,かなりの試合をフォローしてた.その頃は僕は大学院の修士学生.研究室の技官の方にWOWOWから録画してもらって,プロジェクターで見てた.まだ全試合録画してもらったのをDVDとして持っているんじゃなかろうか.

その時は,ポルトガルの黄金世代と呼ばれたフィーゴ,ルイ・コスタ,パウロ・ソーザらが最後のEUROと言われた年で,ポルトガルを応援してたので,決勝にいったのが嬉しかった.この時,C・ロナウドはまだ10代ではなかろうか.大会初戦のギリシャに負けてスタメンをはずされていたルイ・コスタが準々決勝,対イングランド戦で途中出場して決めたゴールは,鳥肌がたちまくった.ペナルティエリアの左外,相手ディフェンダーを引きづり倒しながら,弾丸のシュート.柔らかいドリブルとパスが魅力のルイ・コスタが見せた執念というか勝利への力強い意志みたいのが表現されたシュートだった.ポルトガルは,開幕戦に負けたギリシャと決勝でも当たってもう一度負け,準優勝.勝者以上に敗者が際立つ決勝のあとでした.

さらに思い出話をすると,海外の試合で記憶に残っている一番古いのが,92年ヨーロッパ選手権決勝のドイツvsデンマーク.EUROなんてしゃれた言い方は日本ではされてなかった時の大会.ドイツは東西統一ドイツとして初の国際大会で,コーラーがディフェンスの中心にいて,FWはたぶんクリンスマンだったような気がする.デンマークは,後に日本代表監督になったオシム率いるユーゴスラビアの代替出場で,結局,この決勝も勝って優勝.攻撃ではラウドルップ弟が,守備ではGKシュマイケルが活躍した大会でした.ほとんど知識もない中学生だったので,何となく見ていたが,海外の試合をTVでやること自体が貴重だったので,ビデオで録画して何回も見たと思う.この時のVHSビデオは,たぶんまだある.その時のプレーを思い出すと,やはりFootballは進化しているんだなと思う.戦術や技術が変化しただけと言うだけでなく,おなじ事を目的にした技術や戦術でも圧倒的に洗練されていたり,スピーディーになったように感じる.

ということで思い出はこのぐらいにして,今年のEURO2012.数試合を消化しての感想.

オランダvsデンマーク、ドイツvsポルトガル、スペインvsイタリアをだいたい見た。ここまでで自分の好きなチームは、ドイツかイタリア、次いでオランダ。パス回しがベースにあるけれど,他の攻撃のバリエーションを高いレベルで持っているチーム.

スペインは強かったけど、おもしろくない。攻撃はペナルティエリアの幅から広がらないし、パス回し以外のバリエーションがないから俺には単調に見える。パス回し以外の選択肢があってパス回しをしてるというより、他の選択肢を全く排除している感じがする。自ら自分たちの限界を定めているような感じ。特にスタメンの布陣をみると、チームとしてもパス回ししか志向してないのだろう。ただ,まぁ,パス回しはスゴイ.見た試合に関してはイニエスタが凄すぎたように思う.あーやって,極端な事をやったほうが価値観というのは根づくのかな.今はどのチームもパス回しがベースになっているのは,確実にバルサやスペイン代表の影響だし.
 
5年か10年か前、ユース世代の大会だと思ったけど、メキシコが残り10分くらいで負けてるんだけど、真ん中をこじ開けようとして、クロスは使わない。結局、同点だか逆転して、この徹底ぶりはすごいなと感心した。

スペインも同じ事をしているのだけど,そういうのを感じなくて、もう強いんだから、次のチャレンジ(パス回し以外の攻撃を組み合わせる)をしてくれないかなぁ.まぁ、スペイン以外が優勝するしか、スペインを変えられないか.スペインには準決勝くらいで負けてもらいたい (一方で、今大会で負けたあとも、あのパス回しに固執するスペインを見てみたいにもする。強くないチームが一つの攻撃にこだわるのは嫌いじゃない。).

ポルトガルも攻撃は単調。スペインと違うのは、チーム能力としてこれしかできないという哀愁漂う感じ。基本的にはC ロナウドだのみ。下克上目指して,こちらには頑張って欲しい。少しは応援している.ロナウドとナニと左サイドバックの選手(名前忘れた)が近い距離で絡んだ時は何かがおきそうな気はする。それにしても、ロナウドはボールを持ったら何かしそうな気がするなんてものではなく、必ず何かする。必ずシュートを打つか、ペナルティエリアに入ってパスまで行く。ロナウド自身も自分がボールを持った時だけに賭けている感が見える。ボールを持った時以外はほとんど何もしていないw けど,ドイツ相手にあのドリブルができるなら許されるだろうな.

ドイツは右サイドのミュラーがトラップせずにダイレクトなクロスをあげるのが攻撃のアクセントになってて楽しい。20年前とは違って,今ではドイツも綺麗なパス回しをするし、ドリブルを得意とする選手もいるし、攻撃のバリエーションは豊富。見てて楽しい。1対1で負けないこだわりは相変わらずなので、強い。今のところ一番楽しくて、一番強いと思う。まだ出ていないサブのメンバーも充実しているし,決勝までの長丁場で怪我人とか出ても戦力の落ちないチーム.スペインとやって勝ってほしいチームの第1候補。優勝してほしいチーム.

スペインと対戦したイタリアも、まずまず。全体に細かいパス回しで局面を打開できるし、攻撃のアクセントになるピルロがいる。ピルロは、中村憲剛を大好きなのと同じ理由で大好きだ。ゴールに直結するという意味のダイレクトなパスで攻撃にアクセントをつけられる。バロテッリだけは、いやはや不安。。。

オランダはパス回しがうまいという印象は小さいが、ロッペンのドリブルやスナイデルのパスはアクセントになる。フォワードはいい選手が何人もいるし、ファン・ボメルのような渋い選手もいるし、総合的には強かった。決勝トーナメントに行って,調子を上げてほしいチーム。スナイデルも好きな選手の一人。

日本代表も最終予選があって試合を見ているから、それと比較してしまうが、今の日本の選手があと1-2年、経験と自信をつければ、オランダやイタリアとはいい勝負をしそうに思うのは,ひいき目か!? 今の日本代表ですらロナウドさえいなければポルトガルに10回中7回くらいで勝てるように思うし、いわんやデンマークには。そういえば,開幕戦のポーランド vs ギリシャも早送りで見たけど,この両チームとやっても,日本の方が強いと思えた.日本代表については明日のオーストラリア戦が楽しみだ.

2012年5月25日金曜日

前部帯状皮質前膝部への局部微少電流刺激は悲観的意思決定を誘発する.Amemori & Graybiel. Nat. Neurosci. 2012

Amemori & Graybiel. (2012). Localized microstimulation of primate pregenual cingulate cortex induces negative decision-making. Nature Neuroscience.

誰かに論文紹介できるくらいには読んで,いつも参加させてもらっている医学部の研究室での文献紹介にて紹介した.ただ,検索したら,こちらに日本語で内容が書かれていたから,研究内容についてはそちらをごらんあれ.新着論文レビュー FirstAuthor's 「マカクザルに対する前帯状皮質の前部への局所的な微小電気刺激は悲観的な意思決定を導く 2012年5月2日」

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用いられる解析方法(&実験設計)は,「報酬系と意思決定」というテーマで,かつ電気生理学研究としては,1つの極.とっーても洗練されてる.これまで断片的に採られてきた先端的な方法が網羅されてる.行儀良く巨人の肩に座った研究.お手本.

2択の意思決定課題なので,Conflict を意思決定行動のエントロピー(情報量)と定義するのは,ちと大仰.この研究だけを見た生理学の人からは,「なんでこんな面倒な解析をするのか」という声も聞こえそうな気はする.だけど,今後,もっと選択肢が増えた複雑な状況に拡張するには,妥当な方法でしょう.

情報学や工学の人にとったら,何ら目新しい方法ではないけれど,実験科学の研究にきちんと適用するのは,それはそれで相当に大変.この研究は,適用するための細心の注意が払われていると思う.脳研究は,世界全体からすれば,重箱の隅をつつくようなことだけど,重箱の隅をつつくのも大変.隅をつつくのに,スプーンじゃ無理だろう? たぶん,箸だな.そんでもって,箸をうまく使わないといけない.

ところで,検証するのに技術的に可能かどうかの際(キワ)を攻めた研究はイイ研究だと思うけど,Nature,Scienceに掲載されるには,Reviewer(この論文だと生理学者) に理解されるかどうかの際が重要だったりする,たぶん.その点でも,この論文は,生理学者の理解の際の内側にきっちりと納めてるのが見事な感じ(こう書くと高慢かな.科学も社会的な営みで発展しているので,他の誰かに理解されなきゃ価値はないと見なされちゃうわけで... そういうことを考慮するのも多少は必要でしょう).

逆に言えば,実験家といえども,ここで何を計算しているかわからなかったら,さすがに不勉強と言われても仕方ないよね.だって,(たぶん)大学院では実験の訓練を受けてない理論の人が,ここまでの実験を行うんだからさ.実験は,神経活動の記録,微少電流刺激,投薬実験と行われていている.実験条件のパラメータ(報酬量と罰の量)も連続と言っていいほどで,多くの条件で実験されいる.記録している神経活動の数も一般的な場合より(たぶん,倍くらい)多いんじゃないかな.かなり読みごたえアリ.

個人的には,Behavioral patterns とか Firing patternsとか pattern という情報学にも親和性がある単語が使われているのが,あとからじわじわくる.pattern という単語が使えるほどに,実験条件のパラメータをふっている(連続にしている)ってことだし.じわじわ.

認知神経科学とかシステム神経科学の中の人,全員に,精読をおススメする論文です.自分が研究している領野だとか機能だとかに関係無く,参考になると思う.fMRI研究をしている人にも,解析方法が見慣れているはずなので,理解しやすいはず.

 

PS.

2年前だかにclosedなセミナーで,聞いてたはずなのに,さっぱり覚えていなかった(図だけはおぼろげに記憶あり).というか,その後に予定されてた自分の発表が気になって,たぶん,上の空で聞いてた.文献紹介で紹介したけれど,さらに精読すれば理解が深まりそうなので,もうちょっと読んでみたい.Supplementary は,紹介するのに必要なところしか読んでいないし.

PS. PS.

前回紹介したのもそうだけど,方法としては極みと言っていいのに,それでもこの程度.あー,科学って地道.1つの論文で心躍るほどにスゴイってのはないなぁ.脳の研究って,その点ではつまらない.

PS. PS. PS.

Pregenualという単語を知らなかったのでメモ.genual はgenuの複数形.pre(前)+ genu(膝,ここでは脳梁膝の意味か).ACC か Cingulate cortex が後にくる場合でしか,使われてないようす.タイトルで前帯状皮質前膝部と訳したのは,造語.一般に使われているかどうかは知らない.