2009年9月12日土曜日

他人の評価

 
Frog in Orchid

日本だとフットボール(日本で言うところのサッカー)では,オールスター戦はサポーターがイイ選手を選び,その年のイイ選手(MVP,新人王,ベストイレブン)は監督や選手が選ぶ.ヨーロッパのフットボールだと,シーズン終わりの5月,6月の頃になると,各国のフットボール協会やフットボール記者が一番イイ選手を選ぶ.

フットボールの選手は,その業界の当事者(監督,選手など),プロフェッショナルな批評家(ジャーナリストなど),アマチュアな批評家(サポーターなど)に評価されるわけです.

ところで研究業界だと,研究の評価で耳に聞こえてくるのは当事者達の評価がほとんどですよね.Peer to peer,P2P.

日本でも京都賞など大きな賞がありますけど,評価しているのは研究者か元研究者の方々ですよね.ジャーナリストが選ぶ賞とかってあるのかな?Scientific American(日本だと日系サイエンス)が年間ベスト50の研究(者)などを発表しています.これはジャーナリストが選んでるのかな.

当事者とジャーナリストでは,評価軸のベクトルが少し違いそう.

ちなみに,僕は基本的には訓練を受けている専門家というのを尊重する質(たち)なので,科学に批評家がいるのなら,当事者からの評価よりも批評家の評価というのを気にするような気がする.

PS.
アジアフットボール連盟(AFC; Asian Football Confederation)だと投票ではなく,国際試合で毎試合選ばれるMVP選手に決まったポイントが与えられて,年間を通してそのポイントが多い人が選出されます(5,6年前までは,投票権をもっている記者投票だったけど,たしか).

この類だと,研究業界にも,論文数だのインパクトファクターだのいろいろと評価指標があります.分野によってこの特徴空間が違うので,分野横断的なところで研究している人は人一倍大変だろうな.
 

2009年9月10日木曜日

科学報道

Nature Digestに科学ジャーナリズムについて記事がいくつかまとめられて載っていました(過去のNature記事をまとめている雑誌なので).このページは日本語での翻訳もされているので,日本語で読んでみた.

・科学ジャーナリストはチアリーダーか監視役か(PDF)
 Cheerleader or watchdog?

科学ジャーナリズムの「聖職者モデル」を超えて(PDF)
 Science journalism: Toppling the priesthood

科学ジャーナリズムの歴史的変遷 (PDF)
 Science journalism: Too close for comfort

盛り上がるアラブ世界の科学ジャーナリズム (PDF)
 Science journalism: The Arab boom


特に2つ目の記事がおもしろかったです.
ここで聖職者というのは,科学者の言葉をに科学者以外の多くの人に伝えるための翻訳者という意味.ジャーナリストは多様な分野を追跡しなくてはいけないから,その研究の位置づけの把握や批評などまでは手が回らなくて,最低限の仕事,つまりプレスリリースの複製ですませてしまう状況になっているというのを表現しています.

その解決策の一つとして,科学的な知見が世に出る過程を見せたらいいと言ってます.(ちなみに,僕は「世に出る」と書きましたが,日本語本文では「作り上げられる」,元の英文でも「Crafting knowledge」とか「... of how scientific knowledge is crafted」と表現されています.僕は気にとめない表現だけど,気にする人いますよね,きっと.このへんコワイので表現を変えてみた.)
「この問題に取り組む1 つの方法として考えられることは、論文の最終稿とともに、匿名査読者のコメントをジャーナリストに閲覧させることである。」
これは確かに良いなと思った.ジャーナリストだけでなくて,その分野の初学者にも有益かなと思った.これまでも論文のIntroとDiscussionを読むことでその研究の課題や位置づけは一応分かるのだけれど,査読者のコメントを載せれば,さらに付加的な情報となりそうです.逆に混乱するかな.

ともあれ,ジャーナリストなら科学者のコミュニティーとは独立に批評できる規準が持てるようじゃないとダメですよね.Nature essayでジャーナリストが査読コメントを公開しろと要求した!?のはおもしろいなと思いました.Biology Directなど一部ではすでに査読者のコメントも載せているとか.


3つ目にある記事もおもしろかったです.科学記事のもつ影響が変容するとともに科学ジャーナリストに要求される事も変わってきている様子が書かれています.

それとジャーナリズムの話しではないけれど,会議に参加して聞いた内容をWebにアップしてしまう行為についての記事もありました.これは無料公開記事になっているようです(アカウントの登録は必要かも).
ブログは学会・国際会議の敵か?(PDF)
 

2009年9月4日金曜日

90億の科学,あるいは2700億の科学.

 
「中心研究者及び研究課題」の選定結果(PDF)

大きな予算のプロジェクトの選定結果が出てました.ふーん.これは,予定通り予算配分されるのでしょうかね.選ばれた研究に対するコメントはないですが,落選した研究プロジェクトの中に残って欲しかったのがあったので残念.


ついでに!?,こんなのも公表されていましたね.

先端的研究を推進して実現してほしいこと(PDF)
参考:科学者、研究者のイメージまとめ(PDF)

実現して欲しいことでは,宇宙起源の解明以外は科学ではなく技術的な期待ですね.なんだかTVから出てきたような結果です..

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ひところ,技術というか工学研究は目的を果たせば,それがなぜ実現しているかという科学的な根拠が分からなくても成功だと思ってる節がありました,わたくし,恥ずかしながら正直なところ,ほんの少しですが.

最近,技術的な研究も科学的な考察をうんとする必要があるんだなと痛感する議論を目の当たりにしたこともあり,そんな考えは消し飛びました.多くの人に技術を伝えようとすればきちんと科学的考察や検証をする必要ありますよね.

ということで,「科学が基礎研究で,技術(工学)が応用研究だ」なんて単純な図式はこれっぽっちも思っていないのですが,とはいえ,それぞれ研究に性格があることは実感しています.その説明としてなかなか好きなのが,科学の四象限について@赤の女王とお茶をです.抽象度←→具象度,知のための科学←→人のための科学の2つ軸,4つの象限で説明しています.

1.抽象度が高く、知のための科学

たとえば素粒子科学は今のところここに当てはまるのではないでしょうか。

2.具象度が高く、知のための科学

クラゲGFPの発見はここに入るでしょう。ただし、現在では強力な応用ツールとしての方法が見出されていますから、3番に入っているかもしれません。しかし当時としてはそこまでの予見はできなかったでしょう。

3.具象度が高く、人のための科学

まず入るのが医学や工学でしょうね。たとえ宇宙的一般性がなくとも、難病の治療法を見つけることには大きな価値があります。ノーベルのダイナマイトの発明などもここでしょう。

4.抽象度が高く、人のための科学

経済学や社会学かな。言語科学や情報科学も入るかもしれません。人や社会に関して抽象的な一般性を見つけようとする科学です。

ということで,「先端的研究を推進して実現してほしいこと」を読んで,第3象限の科学に対する期待ばかりなのが残念でした.

PS.
説明すると長くなりますね.
自分は第2象限の住人で,第4象限に遊びに行く人かな.