2008年9月29日月曜日

データだけ神経科学

 
神経科学の実験データをただ統計解析して,統計的性質を述べただけ研究.

物理世界からデータを取得したのに,その統計的性質が物理世界において何を意味するのか述べられていない.

イントロは神経科学で,中ほど数理的記述があって,数理的性質を述べて,それで終わりの研究.

最後,神経科学に戻ってきて議論をやらなくては,研究ですらない.

某会議で思った事.


PS.
神経科学の現象を数理的記述を用いて説明したおもしろい理論研究はありました.

ただ,理論から予測される知見,実験パラダイムの提案を積極的に述べたらどうでしょう.

神経科学の知識が浅いからか,その辺が述べられていない.

これ,自戒も込めて.
 

2008年9月21日日曜日

いま,一番怖いこと.

 
 
  停電

  読み:ていでん
  意味:配電が停まる事.
      狭義には,配電の停止により,PCがシャットダウンし,
      走らせていたプログラムが停まる事.
      また,長時間かかるプログラムだった場合,解析が無に
      帰すショックにより,研究者までもシャットダウンして
      しまう事.
  用例:彼,停電したみたいです.


京都は,明け方,ものすごい豪雨でした.いまも降っています.
 

2008年9月18日木曜日

Prior♪



Prior~♪ってさけんでます(特に3:00あたり).
これ,とある国際会議の懇親会だとか.楽器を演奏しているのは少し前まで会議で(たぶん)マジメに議論してた研究者達.とある会議とはこれ↓.ベイジアンの方々の集まり.ISBA 2008(International Society for Bayesian Analysis) World Meeting cf.ISBA

ベイジアンとはベイズ(Bayes)という統計の流派??を信奉??している方々.フィッシャー,ネイマン - ピアソン派の陰に隠れていたけど,出てきたら鬱積??をはらしてますね!ただ,ベイズって今では,スパムメールの除去とか工学的にはいろいろと使われてる.

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AIC(Akaike infomation criteria:赤池情報量規準)は「予測できる」ことをモデル選択の基準にしているわけですが,実はそれはデータの真実を表していないことになります.予測性能が良く(予測誤差最小)ても,それは真実を表していないのですね.BIC(Bayes infomation criteria:ベイズ情報量規準)なら一致性(標本数が無限の時に真のモデルと一致する性質)があります.

この辺の議論は,この間のバケツの議論と関係すると思うんですよ.バケツの余韻が残っているうちに,書こう...実は時間的精神的に余裕がなかったりするので,...途中省略してキーワードというか今の時点での僕の安直な結論,データ同化(Data Assimilation). 

EOM
 

2008年9月16日火曜日

GoogleMapのストリートビュー

 
まだ一部ですが,Google Mapでストリートビューが見られます.ストリートビューは地図上の場所の実際の映像が見られようになっています.例えば目当てお店に行くのに,店舗の外観がわかっていると初めてでも発見しやすいので便利です.それから,これは単純に楽しくもあります.普段行き来して知っている道も,思わず見てしまうことも.

が, が,が,当然ですけど,ストリートビューの範囲にある僕の住んでいる家も映像で見られてしまいました.これ,つまり住所がわかれば,住んでいる家の外観が簡単に わかってしまうということですよね.いままでは,お店でメンバーズカードなど作る時に,住所とか電話番号を書くのはそれほど抵抗なかったのです.僕は,住所とか電話番号程度の個人情報は調べればわかってしまう情報だと思っているので,それほど神経質では無いんです.ですが,住んでいるところが「見え」てしまうっていうのは,感覚的に生々しい.こうまで簡単に, 住んでいる家の「見え」がわかると,なんだかちょっと気持ち悪い気もします.

それから,住んでいる家ってかなり情報を持っていそうです.一軒家だとか,マンションだとか,ぼろアパートだとか.お店にとっては住所1つでいままで以上に重要な顧客情報になりそうです.うーん,全てを電子情報化して,検索できるように目指すGoogleさん,おもしろくもあり,かなり怖い.
 

2008年9月15日月曜日

バケツバケツバケツ

 
先週は生理学研究所での研究会に参加.その中で,研究の方法論についてバケツ型研究,サーチライト型研究という話題が1つ挙がりました.以下のような「対照的」な2つの研究方法についてでした.

  • サーチライト型研究:研究者の持つ仮説を検証するために理想化された実験課題(サルやヒトに行わせる認知もしくは行動課題)を作成し,データをとり,解析する.特定の仮説にサーチライトを当てた研究.
  • バケツ型研究:研究者は仮説をもたずに,実験課題もできるだけ自然な状態をつくり,データをとり,解析する.仮説はデータから発見(もしくは発明)される.とりあえずデータをバケツに入れるような研究.

特に,人文科学の方の講演では,バケツ型研究が必要だ,という事でした.言うまでもなく,現在の研究は一見するとサーチライト型研究です.研究会が終わった後にバケツ型研究に対する反発を耳にしたので,ちょっと不思議に思っていました.その時は,「仮説ナシ」ってのが引っかかったのかなと思っていたのですが.バケツ型を言い出す問題意識は理解できる事だと思いましたし,それ以上に2つの点であたりまえに思えて,タイミングを逃し,この時は発言できなかったのですが,ここで備忘録のためにもまとめておこうかなと,メモします.あたりまえに思えた理由の

1つ目は,サーチライト型研究はバケツ型研究の過程を経ているという事.
2つ目は,仮説がなければ検証もできないが,仮説をデータから探索する事は可能である事.


1つ目ですが,
サーチライト型研究者も仮説を作るために,多かれ少なかれ研究対象の観察があるはずで,試行錯誤があるはずです.研究者なら過去の論文をたくさん読みますし,それも間接的には対象を観察している事になるんじゃないかなと.それがデータ(情報)をひたすらバケツに入れている過程になっていて,それを経て,はじめて仮説が発見(発明)されるのだと思うんです(仮説は発見か発明かという議論もありますが,ここでは区別しない).バケツ型→サーチライト型という循環があるのが研究かなと.つまり,さきほど「対照的」と書いたのですけど,研究の裏表にある対称的な関係だと思うのですよね.論文を書く時はサーチライト型な風にやったと書きますけど,実はバケツ型の作業もやっている.

2つ目は,
検証する,というレベルまできちんと調べるためには,やはり研究者は仮説を持って,できるなら仮説を検証するための実験課題を組む必要があるでしょう.ただ,単に1つの実験だけを持ってきて,検証するのは困難な研究もたくさんあるので,時にはいくつかの実験を重ねて検証する必要もあるのだと思います.

一方で,高次元で膨大なデータから,仮説を探索する事は可能です.もしこれに否定的なんだとしたら,それはおかしいと思う.

仮説を探索することが可能というか,すでにたくさんやられている.統計学習とか機械学習などの統計数理を道具として使えばできる.最近では,統計的性質だけでなく,データの構造(系統樹型,多次元空間型,...)を推定するなんていう研究もある(データから「構造」を発見する:より人間に近づく人工知能WIRED VISION ,記事のネタ論文The discovery of structural form by Charles Kemp and Joshua B. Tenenbaum).脳科学でだってfMRI解析に使うSPMというソフトウェアや阪大で視覚研究をされている大澤さんがモザイク刺激を用いて行っている研究も,そういう思想なはず.特に珍しくはないはず.

ただし,その手の研究を聴いていて,良くないと思うのは,検証にはなっていない事がある点.現象を「説明」にはなっているけども,他の可能性を棄却する「検証」には到っていたないことがあるのです.同時に複数の事が起こって,それを切り分けたい場合に解析だけではそれはできない.解析の中に不良設定問題が入っちゃっている場合なども,得られた説明が局所解であるかもしれない.そういう場合がほとんどなはずなので,そこはちゃんと実証実験しなくちゃいけない.他のすべての可能性を棄却する事は原理的に出来ないのですけど,考えられる範囲については明示的に棄却しておくべきでしょう.

もし,大量のデータを持っていて,研究者が持つ仮説(heuristics)だけで解析しているとすれば,それは確かに賢くない(高次元なデータなのに,検定以外で統計的解析を使っていない研究は結構目にする事があるので,それは残念).

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理研の藤井さんが,バケツ型はサーチライト型を内包しているんだとブログに書かれています.
バケツ型とサーチライト型の研究は異なるものではないという事です。違いは、自然とか自然じゃ無いとかということではな くて、対象としている次元の数が増えているというだけです。それ以外に何も変わりません。(途中省略)バケツ型研究は、サーチライト研究を内在しているのです。つまり、バケツ型研究のプラットフォームで次元を絞れば、従来のサーチライト型研究と同レベルの制限を加えた実験も出来るし、それを複数行 う事で異なる文脈間での比較も出来ます。そういう自由度は、体験しないとわからないので、抵抗する人が沢山いるのは良く分かります。
単細胞記録の電気生理研究と比較すれば,確かに飛躍的に高次元なデータ.バケツに抵抗がある人もいるのかもしれません.

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個人的に,東京大学の池谷さんの研究などは,統計解析したらおもしろいと思えるくらいに大量の神経細胞を同時計測できるし,興味津々です.fMRIも計測として比較的悪くないと思うのですが,やはり,空間・時間解像度など,こころもとない部分があります(それでもヒトを計測するには確立した方法です).

PS.
唯一,バケツ型を経ないサーチライト型があるとすれば,計算論を考える事でしょうね.脳ではなく,脳が情報処理している環境について思考して,その最適性を考えて,仮説を発見(発明)する.

PS.PS.
藤井さんはこうも書かれていて,
例えばワーキングメモリー課題の実験はそのことしか議論できません。つまり他人の実験と直接比較が出来ない。だから、専門外のヒトから見れば玉虫色に見えるんでしょう。
この文脈でバケツ型の必要性も書かれていました.こちらが重要な問題だと思うのですが,ただ,バケツが解決になるのか僕にはよくわからないところです.

2008年9月11日木曜日

演算操作的定義!!

 
解析で計算機(コンピュータ)を走らせている間に少し,書きます.fMRIの解析をしているのですが,データ量が多いから時間がかかる.結果を見たら,さっきのは失敗していたし...もう一度です...

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研究において,何を以て「理解」した気になれるかは,それぞれの研究者でちがいます.脳の構造を理解したい人,システムの動的なふるまいを理解したい人,細胞レベルの機序を理解したい人,認知レベルの機序を理解したい人と様々です.

さっき,僕が研究に理解したい水準の1つがハッキリしました!漠然としていたのですが,ついさっき輪郭の見える言葉を見つけたような気がします.結論から言うと,僕は,演算操作的定義(造語です)がはっきりすると理解した気になれるという事です.

僕が神経科学研究において,興味があることの1つに脳の情報処理があります.論文などを読んでいて,「~に関与する細胞」や「~に寄与する」という説明ではうやむやした霧の晴れない思いです.一方で,論文に数理的なモデルが書かれていると,霧が晴れる事が多いのです.

例えば,最近の神経科学では「注意(attention)」の研究が大流行です.ヒトやサルに,行動課題を課して,その時の神経活動を計測します.電気生理的な方法であったり,fMRI,MEGの方法で計測します.計測されているのであれば,それは操作的定義がされていることになります.つまり,注意の研究の場合,方法(行動課題とその解析)が注意の定義なわけです.ですが,方法の抽象性が自然言語だけで書かれている事もあり,僕にはスッキリしない.

一方で数理的に注意が以下のように説明できるとします.そうすると,僕は理解した気になる.yが認知,xが知覚だとして,その関係が y = f(x)と書けるとします.xをfという演算処理をし,yという認知が得られるという事です.ここで,ある実験によってy = a*f(x)という関係が得られ(*はかけ算),この「a」が注意ですと説明されれば,相手の言っている事がきちんと理解できた気になれるのです.

このような脳の演算処理の操作における定義(演算操作的定義)が僕にとって,もっとも理解したい事なんです.演算操作的定義というのを思いついて,そうか,僕が理解したい事はこれなのか思いました.

PS.
ついでに言うと,最終的な理解したいことは,だいぶ前からハッキリしていて,脳の計算論です.なぜ脳がそのような計算をしているか,その理由です.計算論の1つは,脳が計算している事の「最適性」は何か.僕にとって,それをわかる事が最終的な「理解」です.

PS.PS.
ところで,数理的な記述は,相手に正確に伝えられるという点でも好きです.厳密に定義するということではだけではなく,著者が想定している曖昧さも含めて記述できていると思うからです.論文でy = f(x)と書かれていたら,y = ax + bかもしれないし,y = x^2かもしれない.だけど,ひとまずy = f(x)という理解があれば,次が読めるという事を著者は言っています.逆にy = ax + bと書けば,それは明示的にa,bという係数をもつ線形な関係だという事を伝えています.自然言語でも書けるのですが,自然言語だと書く時にそれを意識しなくても書けるので,著者の意図が抜けてしまう事が起きやすい気がします.

cf.
操作的定義 operational_definition
内包的定義 connotative_definition
外延的定義 denotative_definition
 

2008年9月10日水曜日

力士達に同情...

 
今日もこんな時間まで,作業する事になってしまいましたが,ちょっとだけニュースにコメント.

最初はそれほど注目していなかった力士が大麻を使用していた件,Web上に挙がっているニュースを見るとひどいなと思います,マスコミと組織の対処が.

若ノ鵬さんは19歳の時の犯罪なのに,マスコミは堂々と名前を出してしまっている.どちらかと言えば,マスコミは人権を守る側だったのじゃないかと思うのですが.彼らは警察官であり,裁判官でもあるかのようです.この事件ではありませんが,会社の不祥事などで会社の記者会見上をTVで見たのですが,記者達が(なぜか)謝罪を要求したり,正義らしきものを掲げた質問をするのに気分が悪くなることがありました.そして最後に,番組の司会者が捨て台詞に断罪するのがオチでした.

若ノ鵬さんは解雇という決定のようですが,再帰の機会がないのは厳しすぎます.責任をとるのは組織の上の方であって,末端を切ってはいけないと思うのです.ただ,これも実のところマスコミの責任という感じはしています.マスコミは何か不祥事があると厳罰を求めます.さらに,解雇したからって問題は終わりじゃないよという論調を作ります.マスコミにかぎつけられた組織は,とりあえず当事者を切っておけという事が度々見られるようになりました.

露鵬さんの親方である大嶽親方が「親方にとって弟子は大事な子どもですから、やっていないと言うから、弟子を信じている」と言われたのに少し救いがあるでしょう.仮にやっていたとしても,最後まで力になってあげてほしいと思います.
 

2008年9月9日火曜日

【論文】知覚的な推論中の事前情報の神経表現 Summerfield2008

A neural representation of prior information during perceptual inference.
Summerfield C, Koechlin E.
Neuron. 2008 Jul 31;59(2):336-47.


概説
予測符号化仮説(Predictive coding hypothesis)であることを示唆するfMRI論文.予測符号化仮説とは,皮質領野間の相互結合(遠心性結合と求心性結合),領野内での再帰的結合で何が行われているかについての仮説で,次の3つの事をいっています.
  1. 低次皮質から高次皮質へは予測誤差(prediction error)を伝える.
  2. 高次皮質から低次皮質へは低次から伝えられる信号の予測値を伝える.
  3. 再帰的結合は低次から伝えられる信号の予測値(expectation)を計算する.
予測誤差を小さくするように,予測値を計算(ニューラルネットワークを構築)しているということなんでしょう.

2つの実験課題をもちいて,予測値(事前情報)の情報表現がある領野(ブロードマン18・19野,紡錘状回fusiform/lingual gyri,上側頭回Superior temporalgyrus)と予測誤差の情報表現がある領野(1次視覚野V1p,3次視覚野V3,中・下側頭回middle/inferior temporal gyrus)を同定し,その領野間結合関係をDynamic causal modeling(DCM)でモデル同定している.1次視覚野,紡錘状回,中・下側頭回,上側頭回で予測符号化仮説にあう結合関係を示唆している.

感想
おこなった実験課題によって観測できる脳機能についての説明には異論があるのだけれど,それ以外はおもしろい結果.もちろん,異論があるところに本当に問題があるとすれば,その後の結果も否定してしまうことになるのだけど.あと,priorという表現を用いているけれど,注意(attention)とどのように異なるのかが良くわからない.


Figure 1.
A.Predictive codingを説明した図(省略)
B.C.実験課題
上から順に3つの実験課題を説明する図が表示されている.大きく分けると2つの実験課題を行っている.1つは,最上段のA/B decisions task( Forced-choice discrimination task ).図Cは実験課題の進行を表しているが,A/B decisions taskではまず,黒丸の中に青と赤の線が60度で交わる格子が表示され,その後に赤の線分と同じ傾きをもつガボールフィルタAもしくは青の線分と同じ傾きを持つガボールフィルタBのどちらかが現れる.被験者はAもしくはBをボタンで回答する.
中段,下段はA/~A decisions task(Yes-no judgments task)であり,黒丸の中に緑の線分が現れ,その後緑の線分と同じ傾きを持つがーボールフィルタmatchもしくは不正解選択肢non-matchが出てくるので,matchの場合はボタン1,non-matchの場合はボタン2を押して回答する.中段の課題は不正解選択肢が1つだけの場合で,下段の課題と2つの場合.

A/B dicisions taskは,脳内では事前情報を利用せずに一人勝ち戦略(Winner-takes-all)によって計算される(p.337,l3).一方で,A/~A decisions taskはperceptual templateとして外部の刺激を利用し,事前情報を用いて行われる.(ヒトがA/B decisions taskを一人勝ち戦略で解いている必然性がない気がする.A/B decisions taskを一人勝ち戦略で解ける,というのは理解できるのだけど.著者らはこの2つの課題が事前情報の有無を表していると言っていて,この後のfMRI解析でも使われている論理なのだが,これでいいのか??)

D.実験課題の反応時間.薄い灰色がA/~A decisions
taskでmatchを押したときで数字の1,2は不正解選択肢が1つ(図B,中段の課題)と2つ(図B,最下段の課題)の時を表している.灰色はA/B decisions taskでの反応時間で,AはAを押したとき,BはBを押したときの反応時間を示している.濃い灰色はA/~A decisions taskでnon-matchを押したときの反応時間.数字はmatchと同じ不正解選択肢の数.同色グラフ内では差はないが,match < A/B < non-matchで反応時間が大きくなっている.

E(省略,cf.Figure2-5)

Figure 2.A/~A decisions > A/B
decisionsで活動を示した脳部位.つまり,予測値(事前情報)の表現があることを確認された脳部位.
A.ロードマン18・19野,紡錘状回fusiform/lingual gyri,上側頭回Superior temporal gyrusが活動している.
B.図Aに示された各領野で条件間の差を棒グラフと共に示した図.

Figure 3.non-match > (A/B decisions and match)で活動を示した脳部位.予測誤差の表現があることを確認された脳部位.
A.1次視覚野V1p,3次視覚野V3,中・下側頭回middle/inferior temporal gyrusが活動している.
B.省略

Figure 4.
A.B.C.省略
D.Figure2,3で確認された脳領野の結合を示した図(ここが最も重要な解析).最高次であるSTGはA/~Aで活動しており,そこからFG,V1cへと予測値(事前情報)が流れている結合があり,V1cからITGへ予測誤差が流れている結合がDCMによって同定されている.黒の矢印が有意な結合関係であり,灰色矢印は有意でない結合関係.
E.省略

Figure 5.match > (A/B decisions and non-match)で活動した脳部位.つまり,報酬予測や意志決定,予測的知覚(top-down perception)などに関わる脳部位.
A.腹内側前頭野(ventromedial prefrontal; vmPFC),眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortices),後帯状回(Posterior cingulate cotex)が活動している.
B.省略
 

2008年9月3日水曜日

読書感想文 ゆらぐ脳

 
最近,「ゆらぐ脳 」池谷裕二,木村俊介を読みました.

この本で紹介されていたニューロンの時系列データを生データを「見る」ためにデータを音にして何度も聞くというアイディアがおもしろいです.聴覚が時間解析が得意なので,何度も聞いているとデータの性質に気づくことがあるという話しでした.このサイトの真ん中あたりに 神経細胞をピアノの鍵盤に割り当てたときに奏でる音楽が公開されてます(直接にはここ).  実験屋さんにとって,まずは,できるだけ計測されたままの生データを見ることは重要なのですが,データが大量,高次元になってくると,可視化するのにも結構工夫がいります.機械学習,統計学習の分野でも大規模データを扱うので,その可視化に地道な試行錯誤,創意工夫が行われてます(特に研究途中の段階で).音楽に変えるっていうこの方法,大規模な時系列データの「見方」として,他の分野でもとても有用な方法な気がします.

ただ,この本の本質は,上に書いたささいな技術論なんかではなく,研究仕事論がそのテーマ.池谷さんが研究をしている上での信条に関わる事です.普通なら口ごもってしまう事も,軽やかに書かれていて,それは,勇気づけられます.あとがきを読めばわかるのだけれど,もちろん,池谷さんにとっても普段なら簡単に口に出すようなことではない事,それが書かれています.

僕が博士課程に進学しようと決めた夏,つまり修士課程2年の夏ですけど,その時は朝永振一郎(ともながしんいちろう)さんの「量子力学と私(岩波文庫)」を読んだのを思い出しました.博士課程に進学すること,そのために大学を移ること,その時の研究などでかなり陰鬱な気分でしたが,朝永さんの文章は「効き」ました.すこし元気がでたのを覚えてます.池谷さんのこの本も「効き」ます.勢いよく一気に読めてしまうので夜中に手にとっても少しの睡眠不足ですむし,寝不足な翌日も,気にしないっ,という気分になれます.

PS.
朝永振一郎に「ともながしんいちろう」とふりがなをふったのは,恥ずかしながら大学に入ってしばらくするまで,「あさなが」と読んでいました.結構間違えている方いないでしょうか?



 

2008年9月1日月曜日

9月.

 
夕方,ミーティングがあって,医学研究科から吉田本部の方の校舎へ行くとき,ランドセルを背負った小学生がちらほら.9月1ですね.小学生も夏休み終了ですか.もうちょっと,8月が続いていて欲しかった.いろいろと焦ることもあります.

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  1. Painful Publishing (Raff M, Johnson A, Walter P, Science. 2008 Jul 4;321(5885):36)
  2. An editor’s checklist (Guillery RW, Science. 2008 Aug 22;321(5892):1039)
  3. High-profile journals not worth the trouble (Rosenbaum JL, Science. 2008 Aug 22;321(5892):1039)
上から順に,「つらい論文投稿」と題された若手研究者の不満,それに対するAnsewer letterとして「編集者のチェックリスト」,「トップジャーナルは手間をかけるに値しない」,という文章.時間がある時に読んでみようかな.
 

【論文】自然画像を見ているときの刺激特徴への注意がV4ニューロンの反応特性を変える David2008.

Attention to stimulus features shifts spectral tuning of V4 neurons during natural vision.
David SV, Hayden BY, Mazer JA, Gallant JL.
Neuron. 2008 Aug 14;59(3):509-21.
 
概説
V4ニューロンでの刺激特性(Spectral tuning)が,向特徴注意(feature based attention)で変化するが,その変化の仕方はある周波数帯の反応利得があがるというBaseline/gain modulationではなく,周波数帯域も変化するTuning modulationであるだろうという論文.刺激特性は,回転周波数(orientation tuning)と空間周波数(spatial tuning).僕は,この分野の,特に電気生理の研究に詳しいわけではないですが,長々と議論になっている話題.最後にV4が視覚探索する際に有用となるmatchedfilter(ニューロンが探索している刺激に選択的になる)の機能を果たしているという結果.自然画像が好きなGallantのグループの研究.

ちなみに,「向特徴注意」は造語です.spatial based attention は空間的注意という訳語があるのですが,feature based attentionやobject based attentionは見たこと無い.特徴的注意というのが変な感じがしたので,向特徴注意と表現してみる.

感想
読んでみると,Tuning modulationする細胞もあるかもしれない,というくらいの内容.Fig.8A(最後の図)を見ると,多くのニューロンはBaseline/gain modulationなんじゃん,と少しがっかり感.いや,僕がTuning modulation派というのではなく,Fig.7までTuning modulationを力説していただけに,最後に肩すかしを食らった感じ.

ちなみに,Jackknifed testが随所に出てきますが(もちろん,この研究では有意な差が出ているので問題ないのですが),一般にはブートストラップ法の方がうまくいきます.

以下,図の説明を中心に詳細.

順番が前後しますが,まずFigure 2のモデルの説明から.
Figure 2.
上からA.No modulation model,B.Baseline/gain modulation model,C.Tuning
modulation model.まず,有限要素構成仮説(←左の英語を僕が意訳した造語,labeled-line
hypothesis)という言葉があり,ある有限の基本要素(今回の場合,周波数)から刺激知覚が生成されるという仮説があり,図のガウス分布ひとつが基本要素を表している.図の横軸は刺激特性(たとえば周波数)であり,T1という刺激では点線の値の刺激特徴量をもつということになる.No modulation model では,刺激に注意が向いていても変化しない.B.Baseline/gain modulation modelは注意によって刺激特徴の基本要素の利得もしくは基準値があがって,刺激選択性が変化する(ここでの図はgainが変化した場合の図になると思う).C.Tuning
modulation modelでは,利得や基準値が上がるだけでなく,それぞれの基本要素がもつ刺激帯域(こんかいの場合は周波数帯域)も変化するというモデル.

この3つのモデルを定式化したのがpp.519-520にある3つの式である.Baseline/gain modulation では,No modulationにg(a)という利得パラメータと基準値のdがd(a)と注意(attention)の関数になっている.さらに,Tuning modulation modelでは,フィルターであるhが空間だけでなく,注意の関数として表されている.(うーーん,やっぱり図があって式があると理解しやすい.図だけでは理解がシャープではないんですよね.式があると頭がすっきりする.)

Figure1.
A Match to sample (MTS) task
固視点が表示され,次に注意の方向(左下か右上)と注意を向ける自然画像が500ms提示される.Delayが850msあった後,20msでつぎつぎに左下と右上の自然画像ペアが提示される.サルは注意の方向に注意を向ける画像が出現したと思ったらレバーを放す.

B.Free-viewing visual search(FVVS) task
自然画像が1つ提示される.2,3secのDelayのあと,3x3の自然画像の行列が提示される(ここでは最初に提示された自然画像はない).さらにDelayのあと,最初の自然画像が含まれる3x3の自然画像の行列が提示され,見つけたらレバーを放す.

Figure 3.
A.この論文の解析の基本となる図.受容野の周波数特性(Spectral Receptive Field)を表しており,横軸が回転周波数,縦軸が空間周波数.自然画像から逆相関法によって,周波数特性を算出している.
Bは横軸がno modulation modelで予測される反応,縦軸が計測された反応.そのニューロンが好む(反応特性がある)刺激T1と好まない刺激T2で差があることがわかる.つまり,刺激特性が変化している.
C. 左図から,T1,T2,その差分の周波数特性を示している.つまり,差分の周波数特性が注意による効果で変化した周波数特性.

Figure 4.

各グラフの見方はFigure 3.と同じ.
A. 1−3[cycle/RF]の低空間周波数帯では,広域の回転周波数特性を持っていることがわかる.
B. このニューロンが好む刺激T1と好まない刺激T2に差があることがわかる.
C. 周波数特性における注意の効果(Difference)を見てみると,図Aとは異なっているので,特徴に対する注意によって周波数特性が変化していることになる.
D. E. 受容野内外を比較した結果.Dでは差があるので,少なくともBaseline/gain
modelで調整が行われている.ただし,受容や内外の周波数特性の差分を見ると,図Aと差が無く,つまり空間的注意は周波数特性の調整には影響しないだろうという結論を示している.

Figure 5.
省略

Figure 6.

Target Similarity Index(TSI)(キャプションにThe tuning shift
index(TSI)と書いてあるが,おそらく誤り.)TSIは刺激と特徴に向けられた注意の効果によって変化した周波数特性の類似度であり,横軸の正方向が似ているということになる.ヒストグラムにおいて灰色のサンプル(ニューロン)は有意に負であったニューロン,黒が有意に性であったニューロンを示す.平均は0.13で,ゼロと有意な差があると述べている.つまり,V4ニューロンは特徴に向けられた注意によって刺激がもつ周波数に周波数特性が調整され,つまり視覚探索などで目的の物に目が向けられるようにするためのmatch
filterの機能となっている,という結果.

Figure 7.
FVVSタスクの結果,省略

Figure 8A.
ニューロン数を空間的注意によって調整されたニューロン,Baseline/gain modelのニューロン,Tuning modelのニューロンで分類してヴェン(Venn)図で示している.これを見ると,Tuning modelに含まれるニューロンは31個で,そのうち,Tuning modelだけに分類されるニューロンが3つある.(BCは省略)


メモ.参考文献に挙がっている重要論文.
Connor, et.al. 1996.
Efron, et.al.1986.
Luck, et.al.1997.
MacAdams, et.al.1999.
MacAdams, et.al.2000.
Moran, et.al.1985.
Motter, et.al.1994.
Reynolds, et.al.2000.
Treue, et.al.1999.
Williford, et.al.2006.