2008年9月9日火曜日

【論文】知覚的な推論中の事前情報の神経表現 Summerfield2008

A neural representation of prior information during perceptual inference.
Summerfield C, Koechlin E.
Neuron. 2008 Jul 31;59(2):336-47.


概説
予測符号化仮説(Predictive coding hypothesis)であることを示唆するfMRI論文.予測符号化仮説とは,皮質領野間の相互結合(遠心性結合と求心性結合),領野内での再帰的結合で何が行われているかについての仮説で,次の3つの事をいっています.
  1. 低次皮質から高次皮質へは予測誤差(prediction error)を伝える.
  2. 高次皮質から低次皮質へは低次から伝えられる信号の予測値を伝える.
  3. 再帰的結合は低次から伝えられる信号の予測値(expectation)を計算する.
予測誤差を小さくするように,予測値を計算(ニューラルネットワークを構築)しているということなんでしょう.

2つの実験課題をもちいて,予測値(事前情報)の情報表現がある領野(ブロードマン18・19野,紡錘状回fusiform/lingual gyri,上側頭回Superior temporalgyrus)と予測誤差の情報表現がある領野(1次視覚野V1p,3次視覚野V3,中・下側頭回middle/inferior temporal gyrus)を同定し,その領野間結合関係をDynamic causal modeling(DCM)でモデル同定している.1次視覚野,紡錘状回,中・下側頭回,上側頭回で予測符号化仮説にあう結合関係を示唆している.

感想
おこなった実験課題によって観測できる脳機能についての説明には異論があるのだけれど,それ以外はおもしろい結果.もちろん,異論があるところに本当に問題があるとすれば,その後の結果も否定してしまうことになるのだけど.あと,priorという表現を用いているけれど,注意(attention)とどのように異なるのかが良くわからない.


Figure 1.
A.Predictive codingを説明した図(省略)
B.C.実験課題
上から順に3つの実験課題を説明する図が表示されている.大きく分けると2つの実験課題を行っている.1つは,最上段のA/B decisions task( Forced-choice discrimination task ).図Cは実験課題の進行を表しているが,A/B decisions taskではまず,黒丸の中に青と赤の線が60度で交わる格子が表示され,その後に赤の線分と同じ傾きをもつガボールフィルタAもしくは青の線分と同じ傾きを持つガボールフィルタBのどちらかが現れる.被験者はAもしくはBをボタンで回答する.
中段,下段はA/~A decisions task(Yes-no judgments task)であり,黒丸の中に緑の線分が現れ,その後緑の線分と同じ傾きを持つがーボールフィルタmatchもしくは不正解選択肢non-matchが出てくるので,matchの場合はボタン1,non-matchの場合はボタン2を押して回答する.中段の課題は不正解選択肢が1つだけの場合で,下段の課題と2つの場合.

A/B dicisions taskは,脳内では事前情報を利用せずに一人勝ち戦略(Winner-takes-all)によって計算される(p.337,l3).一方で,A/~A decisions taskはperceptual templateとして外部の刺激を利用し,事前情報を用いて行われる.(ヒトがA/B decisions taskを一人勝ち戦略で解いている必然性がない気がする.A/B decisions taskを一人勝ち戦略で解ける,というのは理解できるのだけど.著者らはこの2つの課題が事前情報の有無を表していると言っていて,この後のfMRI解析でも使われている論理なのだが,これでいいのか??)

D.実験課題の反応時間.薄い灰色がA/~A decisions
taskでmatchを押したときで数字の1,2は不正解選択肢が1つ(図B,中段の課題)と2つ(図B,最下段の課題)の時を表している.灰色はA/B decisions taskでの反応時間で,AはAを押したとき,BはBを押したときの反応時間を示している.濃い灰色はA/~A decisions taskでnon-matchを押したときの反応時間.数字はmatchと同じ不正解選択肢の数.同色グラフ内では差はないが,match < A/B < non-matchで反応時間が大きくなっている.

E(省略,cf.Figure2-5)

Figure 2.A/~A decisions > A/B
decisionsで活動を示した脳部位.つまり,予測値(事前情報)の表現があることを確認された脳部位.
A.ロードマン18・19野,紡錘状回fusiform/lingual gyri,上側頭回Superior temporal gyrusが活動している.
B.図Aに示された各領野で条件間の差を棒グラフと共に示した図.

Figure 3.non-match > (A/B decisions and match)で活動を示した脳部位.予測誤差の表現があることを確認された脳部位.
A.1次視覚野V1p,3次視覚野V3,中・下側頭回middle/inferior temporal gyrusが活動している.
B.省略

Figure 4.
A.B.C.省略
D.Figure2,3で確認された脳領野の結合を示した図(ここが最も重要な解析).最高次であるSTGはA/~Aで活動しており,そこからFG,V1cへと予測値(事前情報)が流れている結合があり,V1cからITGへ予測誤差が流れている結合がDCMによって同定されている.黒の矢印が有意な結合関係であり,灰色矢印は有意でない結合関係.
E.省略

Figure 5.match > (A/B decisions and non-match)で活動した脳部位.つまり,報酬予測や意志決定,予測的知覚(top-down perception)などに関わる脳部位.
A.腹内側前頭野(ventromedial prefrontal; vmPFC),眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortices),後帯状回(Posterior cingulate cotex)が活動している.
B.省略
 

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