2008年9月1日月曜日

【論文】自然画像を見ているときの刺激特徴への注意がV4ニューロンの反応特性を変える David2008.

Attention to stimulus features shifts spectral tuning of V4 neurons during natural vision.
David SV, Hayden BY, Mazer JA, Gallant JL.
Neuron. 2008 Aug 14;59(3):509-21.
 
概説
V4ニューロンでの刺激特性(Spectral tuning)が,向特徴注意(feature based attention)で変化するが,その変化の仕方はある周波数帯の反応利得があがるというBaseline/gain modulationではなく,周波数帯域も変化するTuning modulationであるだろうという論文.刺激特性は,回転周波数(orientation tuning)と空間周波数(spatial tuning).僕は,この分野の,特に電気生理の研究に詳しいわけではないですが,長々と議論になっている話題.最後にV4が視覚探索する際に有用となるmatchedfilter(ニューロンが探索している刺激に選択的になる)の機能を果たしているという結果.自然画像が好きなGallantのグループの研究.

ちなみに,「向特徴注意」は造語です.spatial based attention は空間的注意という訳語があるのですが,feature based attentionやobject based attentionは見たこと無い.特徴的注意というのが変な感じがしたので,向特徴注意と表現してみる.

感想
読んでみると,Tuning modulationする細胞もあるかもしれない,というくらいの内容.Fig.8A(最後の図)を見ると,多くのニューロンはBaseline/gain modulationなんじゃん,と少しがっかり感.いや,僕がTuning modulation派というのではなく,Fig.7までTuning modulationを力説していただけに,最後に肩すかしを食らった感じ.

ちなみに,Jackknifed testが随所に出てきますが(もちろん,この研究では有意な差が出ているので問題ないのですが),一般にはブートストラップ法の方がうまくいきます.

以下,図の説明を中心に詳細.

順番が前後しますが,まずFigure 2のモデルの説明から.
Figure 2.
上からA.No modulation model,B.Baseline/gain modulation model,C.Tuning
modulation model.まず,有限要素構成仮説(←左の英語を僕が意訳した造語,labeled-line
hypothesis)という言葉があり,ある有限の基本要素(今回の場合,周波数)から刺激知覚が生成されるという仮説があり,図のガウス分布ひとつが基本要素を表している.図の横軸は刺激特性(たとえば周波数)であり,T1という刺激では点線の値の刺激特徴量をもつということになる.No modulation model では,刺激に注意が向いていても変化しない.B.Baseline/gain modulation modelは注意によって刺激特徴の基本要素の利得もしくは基準値があがって,刺激選択性が変化する(ここでの図はgainが変化した場合の図になると思う).C.Tuning
modulation modelでは,利得や基準値が上がるだけでなく,それぞれの基本要素がもつ刺激帯域(こんかいの場合は周波数帯域)も変化するというモデル.

この3つのモデルを定式化したのがpp.519-520にある3つの式である.Baseline/gain modulation では,No modulationにg(a)という利得パラメータと基準値のdがd(a)と注意(attention)の関数になっている.さらに,Tuning modulation modelでは,フィルターであるhが空間だけでなく,注意の関数として表されている.(うーーん,やっぱり図があって式があると理解しやすい.図だけでは理解がシャープではないんですよね.式があると頭がすっきりする.)

Figure1.
A Match to sample (MTS) task
固視点が表示され,次に注意の方向(左下か右上)と注意を向ける自然画像が500ms提示される.Delayが850msあった後,20msでつぎつぎに左下と右上の自然画像ペアが提示される.サルは注意の方向に注意を向ける画像が出現したと思ったらレバーを放す.

B.Free-viewing visual search(FVVS) task
自然画像が1つ提示される.2,3secのDelayのあと,3x3の自然画像の行列が提示される(ここでは最初に提示された自然画像はない).さらにDelayのあと,最初の自然画像が含まれる3x3の自然画像の行列が提示され,見つけたらレバーを放す.

Figure 3.
A.この論文の解析の基本となる図.受容野の周波数特性(Spectral Receptive Field)を表しており,横軸が回転周波数,縦軸が空間周波数.自然画像から逆相関法によって,周波数特性を算出している.
Bは横軸がno modulation modelで予測される反応,縦軸が計測された反応.そのニューロンが好む(反応特性がある)刺激T1と好まない刺激T2で差があることがわかる.つまり,刺激特性が変化している.
C. 左図から,T1,T2,その差分の周波数特性を示している.つまり,差分の周波数特性が注意による効果で変化した周波数特性.

Figure 4.

各グラフの見方はFigure 3.と同じ.
A. 1−3[cycle/RF]の低空間周波数帯では,広域の回転周波数特性を持っていることがわかる.
B. このニューロンが好む刺激T1と好まない刺激T2に差があることがわかる.
C. 周波数特性における注意の効果(Difference)を見てみると,図Aとは異なっているので,特徴に対する注意によって周波数特性が変化していることになる.
D. E. 受容野内外を比較した結果.Dでは差があるので,少なくともBaseline/gain
modelで調整が行われている.ただし,受容や内外の周波数特性の差分を見ると,図Aと差が無く,つまり空間的注意は周波数特性の調整には影響しないだろうという結論を示している.

Figure 5.
省略

Figure 6.

Target Similarity Index(TSI)(キャプションにThe tuning shift
index(TSI)と書いてあるが,おそらく誤り.)TSIは刺激と特徴に向けられた注意の効果によって変化した周波数特性の類似度であり,横軸の正方向が似ているということになる.ヒストグラムにおいて灰色のサンプル(ニューロン)は有意に負であったニューロン,黒が有意に性であったニューロンを示す.平均は0.13で,ゼロと有意な差があると述べている.つまり,V4ニューロンは特徴に向けられた注意によって刺激がもつ周波数に周波数特性が調整され,つまり視覚探索などで目的の物に目が向けられるようにするためのmatch
filterの機能となっている,という結果.

Figure 7.
FVVSタスクの結果,省略

Figure 8A.
ニューロン数を空間的注意によって調整されたニューロン,Baseline/gain modelのニューロン,Tuning modelのニューロンで分類してヴェン(Venn)図で示している.これを見ると,Tuning modelに含まれるニューロンは31個で,そのうち,Tuning modelだけに分類されるニューロンが3つある.(BCは省略)


メモ.参考文献に挙がっている重要論文.
Connor, et.al. 1996.
Efron, et.al.1986.
Luck, et.al.1997.
MacAdams, et.al.1999.
MacAdams, et.al.2000.
Moran, et.al.1985.
Motter, et.al.1994.
Reynolds, et.al.2000.
Treue, et.al.1999.
Williford, et.al.2006.
 

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