2012年8月10日金曜日

勝敗


何事も勝たなきゃ意味がないと思うけど,勝つだけでも意味がない.サッカー選手だったら,当然だけど,サッカーで勝ちたいわけ.じゃんけんで勝ったって嬉しくないわけで.そういう事を,さらに,つきつめて考えていくと,サッカーって何かって事を考えることになって,さらには好きなサッカーって何かって考えることになって,好きなサッカーで勝ちたいって事になる.

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大会で勝ち上がるほど,多くの人が見るようになる.見られる回数や見た人の人数が一番多いのは,勝ったサッカーだ.で,そうすると,勝ったサッカーがサッカーだって事になってしまう.もし,自分が嫌いなサッカーを自らして勝ってしまうと,その嫌いなサッカーがみんなにとってのサッカーになってしまうわけで,それって嫌だ.だから,好きなサッカーをしないと意味がない.

ただ,好きなサッカーをしたところで,見てもらわないと,世界に広まらない.勝たないと誰にも見てもらえないわけで,勝たないと意味がない.だから,勝つ事に意味がある.好きなサッカーで勝つ事に意味がある.

ところで,勝つ事は重要だけど,決勝戦だけは,勝敗は関係無い.勝っても負けても決勝戦はみんなが見ている.負けてもなお,見ている人達に最高のサッカーだったって思わせればいい.そうすれば,自分の好きなサッカーが,みんなにとってのサッカーになる.

今日の試合,みんながしたくなるサッカーをしてたのはどっちだったか.

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僕にとっては,研究がそう.

2012年6月12日火曜日

EURO2012


EURO2012の試合を見たいがためにWOWOWに加入したくもなったが,民放でやっているのを録画して,小出しに見るだけでも時間的にムリだと気づいてやめた.

4年前は全く見なかったけど,8年前のギリシャが優勝した時は,かなりの試合をフォローしてた.その頃は僕は大学院の修士学生.研究室の技官の方にWOWOWから録画してもらって,プロジェクターで見てた.まだ全試合録画してもらったのをDVDとして持っているんじゃなかろうか.

その時は,ポルトガルの黄金世代と呼ばれたフィーゴ,ルイ・コスタ,パウロ・ソーザらが最後のEUROと言われた年で,ポルトガルを応援してたので,決勝にいったのが嬉しかった.この時,C・ロナウドはまだ10代ではなかろうか.大会初戦のギリシャに負けてスタメンをはずされていたルイ・コスタが準々決勝,対イングランド戦で途中出場して決めたゴールは,鳥肌がたちまくった.ペナルティエリアの左外,相手ディフェンダーを引きづり倒しながら,弾丸のシュート.柔らかいドリブルとパスが魅力のルイ・コスタが見せた執念というか勝利への力強い意志みたいのが表現されたシュートだった.ポルトガルは,開幕戦に負けたギリシャと決勝でも当たってもう一度負け,準優勝.勝者以上に敗者が際立つ決勝のあとでした.

さらに思い出話をすると,海外の試合で記憶に残っている一番古いのが,92年ヨーロッパ選手権決勝のドイツvsデンマーク.EUROなんてしゃれた言い方は日本ではされてなかった時の大会.ドイツは東西統一ドイツとして初の国際大会で,コーラーがディフェンスの中心にいて,FWはたぶんクリンスマンだったような気がする.デンマークは,後に日本代表監督になったオシム率いるユーゴスラビアの代替出場で,結局,この決勝も勝って優勝.攻撃ではラウドルップ弟が,守備ではGKシュマイケルが活躍した大会でした.ほとんど知識もない中学生だったので,何となく見ていたが,海外の試合をTVでやること自体が貴重だったので,ビデオで録画して何回も見たと思う.この時のVHSビデオは,たぶんまだある.その時のプレーを思い出すと,やはりFootballは進化しているんだなと思う.戦術や技術が変化しただけと言うだけでなく,おなじ事を目的にした技術や戦術でも圧倒的に洗練されていたり,スピーディーになったように感じる.

ということで思い出はこのぐらいにして,今年のEURO2012.数試合を消化しての感想.

オランダvsデンマーク、ドイツvsポルトガル、スペインvsイタリアをだいたい見た。ここまでで自分の好きなチームは、ドイツかイタリア、次いでオランダ。パス回しがベースにあるけれど,他の攻撃のバリエーションを高いレベルで持っているチーム.

スペインは強かったけど、おもしろくない。攻撃はペナルティエリアの幅から広がらないし、パス回し以外のバリエーションがないから俺には単調に見える。パス回し以外の選択肢があってパス回しをしてるというより、他の選択肢を全く排除している感じがする。自ら自分たちの限界を定めているような感じ。特にスタメンの布陣をみると、チームとしてもパス回ししか志向してないのだろう。ただ,まぁ,パス回しはスゴイ.見た試合に関してはイニエスタが凄すぎたように思う.あーやって,極端な事をやったほうが価値観というのは根づくのかな.今はどのチームもパス回しがベースになっているのは,確実にバルサやスペイン代表の影響だし.
 
5年か10年か前、ユース世代の大会だと思ったけど、メキシコが残り10分くらいで負けてるんだけど、真ん中をこじ開けようとして、クロスは使わない。結局、同点だか逆転して、この徹底ぶりはすごいなと感心した。

スペインも同じ事をしているのだけど,そういうのを感じなくて、もう強いんだから、次のチャレンジ(パス回し以外の攻撃を組み合わせる)をしてくれないかなぁ.まぁ、スペイン以外が優勝するしか、スペインを変えられないか.スペインには準決勝くらいで負けてもらいたい (一方で、今大会で負けたあとも、あのパス回しに固執するスペインを見てみたいにもする。強くないチームが一つの攻撃にこだわるのは嫌いじゃない。).

ポルトガルも攻撃は単調。スペインと違うのは、チーム能力としてこれしかできないという哀愁漂う感じ。基本的にはC ロナウドだのみ。下克上目指して,こちらには頑張って欲しい。少しは応援している.ロナウドとナニと左サイドバックの選手(名前忘れた)が近い距離で絡んだ時は何かがおきそうな気はする。それにしても、ロナウドはボールを持ったら何かしそうな気がするなんてものではなく、必ず何かする。必ずシュートを打つか、ペナルティエリアに入ってパスまで行く。ロナウド自身も自分がボールを持った時だけに賭けている感が見える。ボールを持った時以外はほとんど何もしていないw けど,ドイツ相手にあのドリブルができるなら許されるだろうな.

ドイツは右サイドのミュラーがトラップせずにダイレクトなクロスをあげるのが攻撃のアクセントになってて楽しい。20年前とは違って,今ではドイツも綺麗なパス回しをするし、ドリブルを得意とする選手もいるし、攻撃のバリエーションは豊富。見てて楽しい。1対1で負けないこだわりは相変わらずなので、強い。今のところ一番楽しくて、一番強いと思う。まだ出ていないサブのメンバーも充実しているし,決勝までの長丁場で怪我人とか出ても戦力の落ちないチーム.スペインとやって勝ってほしいチームの第1候補。優勝してほしいチーム.

スペインと対戦したイタリアも、まずまず。全体に細かいパス回しで局面を打開できるし、攻撃のアクセントになるピルロがいる。ピルロは、中村憲剛を大好きなのと同じ理由で大好きだ。ゴールに直結するという意味のダイレクトなパスで攻撃にアクセントをつけられる。バロテッリだけは、いやはや不安。。。

オランダはパス回しがうまいという印象は小さいが、ロッペンのドリブルやスナイデルのパスはアクセントになる。フォワードはいい選手が何人もいるし、ファン・ボメルのような渋い選手もいるし、総合的には強かった。決勝トーナメントに行って,調子を上げてほしいチーム。スナイデルも好きな選手の一人。

日本代表も最終予選があって試合を見ているから、それと比較してしまうが、今の日本の選手があと1-2年、経験と自信をつければ、オランダやイタリアとはいい勝負をしそうに思うのは,ひいき目か!? 今の日本代表ですらロナウドさえいなければポルトガルに10回中7回くらいで勝てるように思うし、いわんやデンマークには。そういえば,開幕戦のポーランド vs ギリシャも早送りで見たけど,この両チームとやっても,日本の方が強いと思えた.日本代表については明日のオーストラリア戦が楽しみだ.

2012年5月25日金曜日

前部帯状皮質前膝部への局部微少電流刺激は悲観的意思決定を誘発する.Amemori & Graybiel. Nat. Neurosci. 2012

Amemori & Graybiel. (2012). Localized microstimulation of primate pregenual cingulate cortex induces negative decision-making. Nature Neuroscience.

誰かに論文紹介できるくらいには読んで,いつも参加させてもらっている医学部の研究室での文献紹介にて紹介した.ただ,検索したら,こちらに日本語で内容が書かれていたから,研究内容についてはそちらをごらんあれ.新着論文レビュー FirstAuthor's 「マカクザルに対する前帯状皮質の前部への局所的な微小電気刺激は悲観的な意思決定を導く 2012年5月2日」

##

用いられる解析方法(&実験設計)は,「報酬系と意思決定」というテーマで,かつ電気生理学研究としては,1つの極.とっーても洗練されてる.これまで断片的に採られてきた先端的な方法が網羅されてる.行儀良く巨人の肩に座った研究.お手本.

2択の意思決定課題なので,Conflict を意思決定行動のエントロピー(情報量)と定義するのは,ちと大仰.この研究だけを見た生理学の人からは,「なんでこんな面倒な解析をするのか」という声も聞こえそうな気はする.だけど,今後,もっと選択肢が増えた複雑な状況に拡張するには,妥当な方法でしょう.

情報学や工学の人にとったら,何ら目新しい方法ではないけれど,実験科学の研究にきちんと適用するのは,それはそれで相当に大変.この研究は,適用するための細心の注意が払われていると思う.脳研究は,世界全体からすれば,重箱の隅をつつくようなことだけど,重箱の隅をつつくのも大変.隅をつつくのに,スプーンじゃ無理だろう? たぶん,箸だな.そんでもって,箸をうまく使わないといけない.

ところで,検証するのに技術的に可能かどうかの際(キワ)を攻めた研究はイイ研究だと思うけど,Nature,Scienceに掲載されるには,Reviewer(この論文だと生理学者) に理解されるかどうかの際が重要だったりする,たぶん.その点でも,この論文は,生理学者の理解の際の内側にきっちりと納めてるのが見事な感じ(こう書くと高慢かな.科学も社会的な営みで発展しているので,他の誰かに理解されなきゃ価値はないと見なされちゃうわけで... そういうことを考慮するのも多少は必要でしょう).

逆に言えば,実験家といえども,ここで何を計算しているかわからなかったら,さすがに不勉強と言われても仕方ないよね.だって,(たぶん)大学院では実験の訓練を受けてない理論の人が,ここまでの実験を行うんだからさ.実験は,神経活動の記録,微少電流刺激,投薬実験と行われていている.実験条件のパラメータ(報酬量と罰の量)も連続と言っていいほどで,多くの条件で実験されいる.記録している神経活動の数も一般的な場合より(たぶん,倍くらい)多いんじゃないかな.かなり読みごたえアリ.

個人的には,Behavioral patterns とか Firing patternsとか pattern という情報学にも親和性がある単語が使われているのが,あとからじわじわくる.pattern という単語が使えるほどに,実験条件のパラメータをふっている(連続にしている)ってことだし.じわじわ.

認知神経科学とかシステム神経科学の中の人,全員に,精読をおススメする論文です.自分が研究している領野だとか機能だとかに関係無く,参考になると思う.fMRI研究をしている人にも,解析方法が見慣れているはずなので,理解しやすいはず.

 

PS.

2年前だかにclosedなセミナーで,聞いてたはずなのに,さっぱり覚えていなかった(図だけはおぼろげに記憶あり).というか,その後に予定されてた自分の発表が気になって,たぶん,上の空で聞いてた.文献紹介で紹介したけれど,さらに精読すれば理解が深まりそうなので,もうちょっと読んでみたい.Supplementary は,紹介するのに必要なところしか読んでいないし.

PS. PS.

前回紹介したのもそうだけど,方法としては極みと言っていいのに,それでもこの程度.あー,科学って地道.1つの論文で心躍るほどにスゴイってのはないなぁ.脳の研究って,その点ではつまらない.

PS. PS. PS.

Pregenualという単語を知らなかったのでメモ.genual はgenuの複数形.pre(前)+ genu(膝,ここでは脳梁膝の意味か).ACC か Cingulate cortex が後にくる場合でしか,使われてないようす.タイトルで前帯状皮質前膝部と訳したのは,造語.一般に使われているかどうかは知らない.

2011年12月30日金曜日

知覚学習は,視覚刺激の提示なしでも,fMRI 脳活動をデコードし,ニューロフィードバックすることで引起こされる. Shibata et al. 2011

 

NewImage

今回紹介する論文のような,新しい方法をとりいれると研究が進展していくのだと思います.ひとくちに科学と言っても,分野によっていろいろな科学のあり方があって良いと思うのですが,採用する方法がその分野の科学を特徴づけるのは間違いないです ※1.

ということで,この科学の住人なので,自分の考え整理してみる.

Shibata et al. 2011.
Perceptual Learning Incepted by Decoded fMRI Neurofeedback Without Stimulus Presentation.
Scienc 334 (6061):1413–1415.


この研究の主な論点は下記の2つです.

1.fMRI ニューロフィードバック による因果性
2.傾きの知覚学習は,V1/V2が関与している

まず1つ目の因果性について

自然現象の因果性にせまろうとする場合,対象に介入する必要があります.脳の研究ならば,まさしく脳の活動に介入する必要があります.例えば,動物実験などで神経細胞に電気刺激をして脳活動を起こすような方法です.


少し脱線しますが,脳で難しいのはいたるところで結合があることです。一部の領野を刺激したつもりでも方法によっては、他の領野も刺激されていたり,情報が伝達されている場合があります。例えば,O'Doherty, et.al., 2011. Active tactile exploration using a brain-machine-brain interface. Nature. では猿の感覚野を刺激して、触覚に基づいたらしき課題を行わせてます.ただ,刺激した感覚野から他の領野へ刺激が伝わっているかもしれないので,本当に猿が触覚に基づいて判断しているかはわかりません.

今回紹介する論文に戻ります.研究のプロトコルは順に

  1. Pre-test stage:被験者の知覚判別能力を行動指標によって計測する.
  2. Decoder construction stage:脳活動データを計測し,Decoder(翻訳機)の学習を行い,視覚刺激を見ている時の脳活動パターンを特定する.
  3. Induction stage:視覚刺激提示によるニューロフィードバックを行い,被験者にV1/V2の脳活動を制御させる.
    1. 提示する視覚刺激は1,2で用いたのとは異なり,さらに提示した刺激では知覚学習は進まない
    2. 被験者は,後頭葉の脳活動をもとにしたフィードバックがある事は知っているが,後頭葉が視覚に関わる領野だったり,最初に行った知覚判別にかかわる領野である知識は持っていない ※2
    3. フィードバックは,2で特定した脳活動パターンに類似性が高ければ大きな円が表示され,被験者は円が大きくなるようにする.脳活動結果のグラフで指標とされている Likelihood(尤度) はこの類似性です(尤度を類似性と言いかえた深い意味はなし.尤度という言葉は情報科学の人以外にはなじみがないと思って.ちなみに,尤度が何を算出したモノなのか詳しくはわかりません).
  4. Post-test stage:ニューロフィードバック実験終了後に,再度1と同じ実験課題を用いて,知覚判別能力を計測する.
    1. 1の時の比較して,知覚判別能力が向上していた.つまり知覚学習があった.

対象とする知覚学習に関係しない視覚刺激提示でニューロフィードバック(Decoding neuro feedback)を行って脳活動を操作した結果,知覚(厳密には知覚にもとづく行動)に変化(学習)があることを示しました.この事より,視覚刺激の入力がなくても,脳活動を変化によって知覚を変化させることができる,という結論を得られました.

簡単に「によって」と書きましたが,今回の方法は電気刺激をするように脳活動自体に直接介入したのと同じと考えられるので,「得られた結論は,相関するというだけでなく,因果性がある」と言及できる方法です.さきほどのをもっと明示的に書くと,「脳活動の変化が原因で知覚学習は生じた」と言えるわけです.

ヒトのfMRI研究で,もしくは健常者で脳の情報処理について因果性に言及しようとすると,不可能と言いたいくらいに難しいので,画期的な事です.fMRIを使わなければTMS という方法を使ったり,健常者でなければ脳損傷患者に協力してもらうなどの方法で,因果性について言及するという研究が考えられます.

この結論について,ここまでのところでは,

(神経科学では当然ですが)学習は脳のどこかで行われている

という仮定があってはじめて,脳活動の変化によって知覚学習は生じた,と結論できます.上の議論は仮定があって成り立つ事ですから,やはり,その仮定である「知覚学習が行われている脳の領野」を示さないといけない※3 ※4.

この論文は単に方法の提案をしたいわけではありません.論文でも, ”The main purpose of our study was to test whether early visual cortical areas are sufficiently plastic to cause VPL of a specific orientation as a result of mere repetitive inductions of activity patterns corresponding to that orientation. ” と書かれています.そこで次の論点です.

2つめの論点,知覚学習に関与している領域について

1つめの論点で書いた検証だけでは,脳のどこが学習に関与しているかは自明ではありません.簡単に考えると,V1/V2の脳活動をフィードバックして被験者に制御させているのだから,学習自体もV1/V2だろうと結論したくなりますが,それは自明ではありません.


なぜなら,ニューロフィードバックで使った脳活動はV1/V2ですが,V1/V2は他の領野とつながっていて,V1/V2の脳活動は他の領野の活動を引き起こしていると考えられるからです.そして,V1/V2で表現された視覚刺激の情報を他の領野が受け取って,他の領野の脳活動変化によって学習が行われているかもしれないからです.また,Fig. 2 で脳の活動変化の指標となる尤度が学習日数におうじて上昇していますが,他の領野の学習による脳活動変化がV1/V2へ影響しているだけかもしれません ※5.

この研究ではV1/V2の活動変化によって学習が生じた事を検証するために,まず,

V1/V2の脳活動変化と知覚(にもとづく行動変化)に相関があること(Fig. 3E)

を示しています.サンプル1つは被験者1人を表しています(たぶん).

少し脱線しますが,サンプル1つが被験者1人を表す相関図は,fMRI研究でよく使われます.例えば,「領野Aと領野Bのの結合性を示すために使われたりもします.最近気づかせてもらったのですが,被験者1人を1つのサンプルとする相関図だと「領野Aの活動が大きい人は,領野Bでも高い」ということまでしか言えません.もっと単純にいうと,「脳活動が平均的に大きい人や小さい人がいる」というだけです.ほとんど情報はありません.この相関図を出すならば,サンプルは試行にして作るべきです.そうすれば,「領野Aの活動が大きい時には領野B も大きい,Aが小さい時にはBも小さい」と言えて,領野Aと領野Bの活動は同期していそうですし,結合性があると言えるでしょう.行動と脳活動の相関図,感覚刺激と脳活動の相関図でも同様です.

今回の研究の場合,1人の被験者で学習した時としなかった時など複数のサンプルをとることはできないので悩ましいところですが,同じ批判はあると思います.

V1/V2の活動変化によって学習が生じた事の検証として,他に Supplementary のFig. S9 があります.説明を論文の順序と逆にしますが,

Fig. S9 B
まず,fMRI decoder construction 時の脳活動データを用いた場合は,他の領野でもV1/V2と同様の判別率を得られた.このことから,他の領野も,傾きの情報表現は持っていることがわかります(「情報表現を持っている」かについては後述の議論を読んでください).
Fig. S9 A
次に,試行毎に尤度(「ニューロフィードバック時(Induction stage) の V1/V2 脳活動パターン」と「翻訳機学習したV1/V2の脳活動パターン」との類似度,ニューロフィードバックに使っている値) を他の領域の脳活動から予測しました.「コントロールとして」V1/V2の脳活動からの予測もしています.

その結果.尤度は,他の領域の脳活動と比較して,V1/V2でよく予測できています.V1/V2が学習に関わっているという十分条件が示しています.論文には ”the V1/V2 itself as a control” と書かれていますが,どちらかというと他の領域と比較して,V1/V2ではよく予測できたと言うべきところなのでしょう.これが逆になっているのは,「他の領域が学習に関わっていない」と言いたい事の表れかな(ちゃんとフォローできていませんが,著者らによる先行研究から考えると).もちろん,仮説検定で「帰無仮説である」ことを検証できないのと同じ論理で,「他の領域が学習に関わっていない」ことは検証できません ※5.

翻訳機が選択したボクセルは情報を表現しているか?


fMRIの脳活動のデコーディング(翻訳)を用いて,科学的な知見を得たいという試みはたくさんされています.

今回の研究でも,述べられている結論を言うためには,選択されたボクセルが傾きを表現している,ことが必要だとは思います.今回は,multinomial sparse logistic regression(Yamashita et al., 2009)をつかって,3つの傾き刺激をクラス分類しています.....えっと,表現を持っているか,僕にはわかりません ※6.

たとえば,Taget以外の視覚刺激2つを変えて翻訳機を学習させても,Targetについては同じボクセルが選ばれるのだったら,選択されたボクセルは特定の傾きの情報表現をもっていると言って良いのでしょうか.

例えば,Hassabis et al., 2009では,海馬傍回からは2つの部屋についてクラス分類できていて,海馬からは各部屋の位置についてクラス分類できています.つまり,一見,海馬と海馬傍回で階層的な位置表現になっていることを示唆するような内容です.ただ,たぶん著者らこの方法と結果からはそんなことは言えないことをわかっていて,「位置情報は1つのニューロンで表現されるのではなく,集団で表現される」という結論を述べるにとどまっています.

Dosenbach et al. 2010 では,SVR(Support Vector Regression, Support Vector machine for Regression)によるクラス分類で選択された領域が情報表現を持つと仮定して,さらに解析を進めていますが,おそらく間違いでしょう.Fig. 2 以降は間違えている.

一般に分類に最適なボクセルだからといって情報表現を持つとは限りません.前者のHassabis et al., 2009は,情報表現を持つ とは言わずに踏みとどまりましたが,後者の Dosenbach et al. 2010 は情報表現を持っていると解釈して解析を進めました.

SVMは,特徴空間の中で分類境界に近いところのサンプルのみを用いて境界が更新されます.なので,境界から離れたところのサンプルが加わっても境界が変更せず,分類するという点で汎化性はあります.ただ,境界を決めるのに使われているサンプル,つまりクラス分類に有用なボクセルを持ってきても,それは情報表現を持っていないと解釈するのが自然ではないでしょうか.各クラスの特徴を持っている,つまり情報表現をもっているは,境界から離れてクラスの中心にあるボクセルだと思うのです.もしくは,他のクラスから離れたところにあるボクセル.また,致命的なのは,カーネルにより写像変換された特徴空間でクラス分類しているので,どのような特徴空間でクラス分類しているか解釈するのが困難です.

確実なのはクラス分類するのではなく,例えば Miyawaki, Uchida et al., 2008 のように,情報表現のモデルを用いて表現して見せてくれれば,選択されたボクセルの総和として再構成できた程度に情報を持っていると言えるでしょう(Miyawaki, Uchida et al., 2008 でも,局所的な表現としてはクラス分類しています.ただ,それは得られた結果を基底表現として全体を再構成しています).その辺の議論はコチラ

ですから,これを使ってニューロフィードバックを行い.....因果関係を検証するのに,この研究をプロトコルの1つに組み入れなければいけないとなると,目眩がしますねぇ....

最後に,ここまでスクロールしてくれた奇特な方に.次の論文を紹介します.マイナーな雑誌なだけに,あまり知らないと思うので挙げておきます.僕も友人に教えてもらいました.

Boulay, C. B. et al. 2011. Trained modulation of sensorimotor rhythms can affect reaction time. Clinical neurophysiology 122 (9):1820-1826.

今回紹介した論文と方法の点で似たような事が脳波で行われています.この論文では脳活動を抑制することまでも行っています.アイデアはかなり面白いです.ただし,いかんせん荒削りです.ちょっと理解しにくいし,科学として詰め切れていないのがかなり残念な論文.でも,方法のアイデアだけはすごい.

おわり.


※1
採用する方法によっては,ろくな科学にならない.fMRIによる認知科学の研究は,まだまだ科学になるかならないかの瀬戸際なところ.そんな風に感じています.
※2
僕は,被験者が視覚野からフィードバックされていること知っていてもいいように思うんですよね.明示的にガボール図を想像してても,この研究の論理は破綻しないような気がする.視覚刺激の入力がなければ同じだと感じてしまう.でも,それではダメだという人がいるのも想像する.なんでだろう?
※3
ちなみに,この研究では(ほとんどの神経科学者もそう考えていると思いますが),研究で対象となっている知覚学習は特定の領野で行われているだろうという仮定があります.つまり,学習の局在性が仮定されています.領野間での結合性変化によって学習するのなら,また別のことを考える必要はあるかもしれません(←あまりちゃんと考えていないので,本当に別の事を考える必要があるのかはわかりません).
※4
正直に言うと,僕は,脳の情報処理が知りたいだけで,どこの領野で情報処理されているかはどうでもいい,ただ,脳の情報処理である事を言うためには,やはり脳のどこで行われているか(もしくは複数の領野間のネットワークとして実現されている事を示さなければならないわけです.だから,好きでもない実験をやるわけです.実験を考えるのは好きですが,実験するのは大嫌いです.でも,必要だから実験します.
※5
「他の領域が学習に関わっていない」と言ってしまうと,Nieuwenhuis et al, 2011. Erroneous analyses of interactions in neuroscience: a problem of significance. Nature Neuroscience 14 (9):1105–1107 で批判されているリストに挙げられることになります.厳密性だけが科学だとは思いませんが,神経科学は解析などで使われる数理の仮定(制約)を無視する傾向にはあると思います.Nieuwenhuis et al, 2011のTable 1の結果を見てください,ひどすぎ.今回紹介した論文では正確に,”The results of these two offline tests indicate that influences of the neurofeedback on VPL were largely confined to early visual areas such as V1/V2. ” と書かれていて,それ以上の言及はありません.
※6
この議論するには,論文に書いてあるだけの情報でそれは断定できないというのが正直なところです.fMRI研究は,古典的な方法ですら随分と解析が込み入っているわりに,分析方法の記述は多くない.典型的な方法を採用しているにしても,当事者に話を聞くと,結構ヒューリスティックスだらけだったりします.このへん,fMRI研究の信用ならないところです.かといって,事細かく書けといわれたら,あまりに面倒だしな..分析のプログラムコードをSupplementとして挙げとくしか方法はないかなぁ.

 

2011年12月9日金曜日

論文管理アプリケーション Papers の 使い方

これは論文管理アプリPapers 2.1(青い家)のお話しです(赤い家(Papers 1.x)もありました).いまでは,論文以外にも,自分が作成したプレゼン資料や誰かからもらった資料の管理にも使えるようになっています.

Mendeleyには,いろいろと共感するし,応援したくもなるんですが,でもまだ全然使えないなぁという印象.アプリケーションとしては,Papers の方が比べものにならないほど洗練されています.Papers が下火になってほしくないなぁと思ってこれを書きました.

一度,赤い家を使っていた時にも書いたのですけどね.コチラ.Mac を使っている人には,オススメします.79USドルです.学割で40% ディスカウント.30日間は無料なのでとりあえず使ってみてはどうでしょうか? 使ってみれば安いことがわかります.

ちなみに,僕は Mendeleyをちゃんと使った事ないし,有償アプリとしては有名なEndNote も使った事ありません.比較してどちらが良いかというのは正確には分かりません.

 


では,使い方の紹介.



論文検索&書誌情報の取得

Get1 papers一番左側のカラムにある [Search] をクリックして検索画面を開きます.

検索窓でタイトルでも入力して検索すれば,見つかるでしょう.

カンタン!

検索して出てきた論文をダブルクリックすれば,新しいタブが開き,書誌情報のあるWebサイトに飛びます.複数を指定して,一括で取り込むこともできます.後述するTips にある検索トークンを使うとさらにスムーズです.



PDFの取得

Change2 Papers新しく開いたタブには,書誌情報のあるWebサイトが表示されてます.

WebサイトにあるPDFのリンクをクリックすれば,PDFを取得できます(図の左円).

カンタン.

PDF取得後,右下にある紙と地球の図のボタンを使えば,取得PDFとWebサイトの表意を切り替えられます(図び右円).Supplement が欲しい時などは,再度Webサイトにもどって,取得します(次を参照).



SUPPLEMENTARY !!

青い家に移ってきてからこれができるようになりました.これはかなり重宝してます.便利です.最近は Supplement を読まないと,実験方法や解析方法がわからないこと多々ありますよね.

Getsupple4 papers

Web サイトを表示しておいて, Supplement のリンクをクリックすると(上図,左)

・Download PDF as
supplemental data
・Create new paper
for downloaded PDF
・Replace current PDF
with newly
downloaded PDF

と聞かれるので Download PDF as supplemental data を選択.論文PDFとは別途保存される.カンタン.

右のカラムの [Supplements] をクリックすると保存された Supplements が一覧されます(上図,右).ファイルをダブルクリックすればアプリケーションから開きますし,スペースキーを押せばポップアップ表示で簡易的に見られます.

Supplement をいくつでも保存することができます!
movie ファイル とか,いろんな形式のSupplementを保存できます!



Web ブラウザからPapersに取り込みたい!


まず,準備.
こちらのSupport サイトに行きます.

Step 2 の下にある [Open in Papers] をWeb ブラウザの ブックマークバーにドラッグ&ドロップで移動します.

これで準備は終わり.カンタン.

インターネットサーフィンをして,およっ,と思った論文があれば,ブックマークバーにある [Open in Papers]をクリックすればOK.



Pubmed など論文検索サイトでない場合,書誌情報がなくて,自分で書誌情報が入力しないといけないことがあります.その場合は,Papers で検索した方が簡単かもしれません.



さて,取得した論文を読む時は.

Read7 Papers
  • [View]-[Read Full Screen]
  • [Command + Shift + F ]
  • 下側にある [Read Fullscreen] をクリック

上記の方法でどれでもどうぞ.

ノート(右側の円) 画面の下にカーソルもっていくとバーが表示されるので,その一番左をクリックすると,ノートが表示され,書き込めるようになる.
ハイライト(左上の円) 本文中の文字を選択して,右クリックで [Highlight selection]ハイライトになっている文字を右クリックすると [Change Highlight Color] があり,ハイライトの色を変えられます.
キャプション(左上の円2つ目) 適当なところで右クリックし,[Make a note]をクリック.

※ ハイライト,キャプションについてはまだ少し使いにくくて,作成したあとにキャプションの位置などを変更できなかったりします.

僕は,PDF を Adobe acrobat で開いて,acrobat の注釈機能を使ってます.Adobe acrobat で作成した注釈をRead Full screen で読むことはできます.Papersで保存したPDFは [Open PDF with ...] で任意のアプリケーションで開けます.



取得した情報は出力してこそ!

Ref8 Papers


これもPapersの大きな特徴の1つです!カンタンにアウトプット.

  • ショートカットキーを押す(左図が表示).
  • キーワードを入れます.
  • 結果が出るので,選択してEnterを押す.
  • Enterを押したその指で!? 続けてキーワードを入力.
  • 次の検索結果が出てきます.
  • また選択して Enterを押します.

気がすむだけ繰り返し,気がすんだら,

  • 例えば,[ Insert Formatted Reference ] を選択して,Enter を押す.
  • 選択した複数の論文について,書式の整った書誌情報が出力できる.


多くのアプリケーションに対応しています.場合によって,[Insert Formatted Reference] が選択できない時がありますが,[Copy to Clipboard] を選択すればいいだけです.そして, ペースト(貼り付け)!スゴイカンタン!!

これは,プレゼンや報告書などせいぜい10個程度の参考文献ですむ場合に便利です.論文を作成する時などたくさんの参考文献のリストを作りたい時は,Collection (タグに相当)に集めて,一括で出力すれば良いと思います.

RefSet Papers
ショートカットキーの設定や書誌情報の書式などの設定は [Papers]-[Preference ...] を開いて,Manuscripts で行います(右図).

Favorite Styles をプルダウンし,moreを選択すると,たくさんの書式が用意されています.プレビューを見ながら,書式を選択できます.現在(2011 Dec. 09)のところ,1405 の書式があるみたいですね.

Papers を開いて,真ん中のカラムで論文を選択して [右クリック]-[Copy] とかおなじみのショートカットキー Ctrl + C でコピーして貼り付けても,書式が整えられた書誌情報を貼り付けられます.



その他の機能

  • iPhone/iPadと同期.
  • 検索は Pubmed,Google Scholar,Web of Science など多くのデータベースから選択して使えます.単独にもできるし,複数を組み合わせても使える.
  • Keyword
    • タブですね.
  • Collection
    • 左カラムにフォルダのように表示されている Collection も便利です.上記で紹介したKeyword とは違うけどタブに相当します(同じ論文を異なる Collection に入れらます).3種類の Collection があります.
    • Manual Collection: 手動で論文を分類して使う.
    • Smart Collection: 条件を設定しておくと,自動的に分類される.これが便利.
    • LiVfe Collection: 他のPapers ユーザーと議論する時に使う.ダレカト ツカッテミタイ.



Tips


検索トークン(blue search token)

Get1 papers


キーワードを入れたあとにEnterを押すと,ブルーの背景で囲まれ,右側に矢印が出てきます(右図).

矢印をクリックすると,そのワードが 何を表すのか指定できます.トークンを覚えておけば,キーボードから指定して入力することも可能です.

・主なトークン
Title, [ti: ]; Author, [au: ]; 1st Author, [1au: ]; Last Author, [lastau: ]; Soruce or Journal, [so: ];
・複雑な検索方法については コチラ

検索トークンは赤い家(Papers 1.x)の時からあった機能でしたが,青い家が新築された時(Papers2.0)ではなくなっていました.だけど,復活.欲しい論文がある時,タイトルを入れて検索すれば,トークンを使わなくてもだいたいヒットしますが,完璧とは言えなかった.トークンがあれば, 完璧と言っていい.


PDFが取得できない場合は...
URL5 Papers
ご くごくごくごくたまに,検索結果から開いたWebサイトにPDFのリンクがないことがあります.その時は,図の矢印のあたりをダブルクリックすると,URLを直接入力できるます.あらかじめ Webブラウザから Google さんに「****(title, author など) filetype:pdf」とPDFのありかを聞いておいて,そのURLを入力すればOKです.

ちなみに,前述したとおり,Web ブラウザで見ているサイトを Papers で開くブックマークレットもあります


ポップアップで論文内容表示

Tips1 Papers

真ん中のカラム下側に,Cover Flow,Preview,Thumbnails のいずれかで表示できます.が,少し小さかったりします.Cover Flow,Thumbnails では最初のページしか表示されませんしね.

そんな時は,真ん中のカラムで論文を選択しておいて,スペースキーを押すと,ポップアップでPDFが表示されます.ページもスクロールできるし,便利です.上下の矢印キーで次々に論文を選択すれば,ポップアップに他の論文が次々と表示されます.




PS.
Wired が日本でも創刊されて,最近 Vol. 2が発売になっていて,Mendeley が特集されていました.Webでも読めます,こちら.Papersも登場してきます.

科学論文のオンラインデータベースというアイデアには、まったく前例がないわけではない。Zote Ro、Papers、CiteULikeといったオンライン/デスクトップでの研究調査支援サーヴィスはすでに存在している。
WIRED 知のシェア – 学術論文における理論と実践

Mendeleyのやっていることは革命的な事だと思ってます.僕も「そろそろ学術雑誌とかいらないんじゃないの!? 」とは思っていましたが,Mendeley の発展次第では本当にそうなるような気もしています.それくらい凄いと思ってます.

さらに凄いなと思ったのは,Social な機能があって,論文毎にどの分野の人が読んだのか,など読者の情報がわかったり,お互いにコメントをしあったりできるのは面白いなと思いました.かなりマイナーな論文でも読者の統計がでてきます(読んでる人が複数人います).

CiteULike を1年くらいだったか使っていたのですが,CiteULikeでは自分と同じ論文を読んでいる人のリストがでてくるのですが,そのリストを眺めるのは面白かったです.同じ目的で読んでいそうな人もいれば,全く違う文脈で読んでいいそうな人もいた(こういうのは,我々日本とか地理的に不利な国にとって有意義な事だと思います.話題がそれるので,またそれは今度に).

それにしても,Mendeley は登録者が圧倒的におおい.これを書いている時点(2011年12月09日)で1,400,994人の登録,119,482グループがあります.さすがにそれは驚異的です.独占的になったら嫌だなぁと思ったので,Papers を応援する意味で,これを書きました.

Papers にも Pepers Livfe というSocial な機能はあるのですが,自分の持っている Nature,Science 論文を見てもコメントがついているのを見つけられなかった.たぶんSocial な機能を使っている人が少ない.

(UIとしては使いやすいので,研究室のみんなが Papers を使っているのなら,Livfe Collections というグループ機能が便利に利用できるような気がします).

Mendeleyで凄いなと思ったのは,コンセプトとSocial な機能くらいで,アプリはしょぼい...やっている事は応援したいと思わせるので,良いアプリなら乗り換えようと思って3時間くらいいろいろと見ましたが,残念ながらPapersとは比較にならないです.Papersの方が良い.逆にMendeley は無料とはいえ,なんでこんなに人気なのかなぁ.






2011年5月6日金曜日

無題


学生の頃,自分のやっている研究の話しが聞きたいと友達が言うから,夜中の10時くらいにわざわざ時間をとって説明していたら,なんだかおかしい雰囲気.聞いてくる質問に非難がうっすらとまざっていて,尋問の様.

変に思って,
「何が聞きたいの? 学術上の議論ならするけれど,尋問に答える気はないよ.」
と言ったら,研究を真似された,と疑っていたらしい.もちろん自分の研究は独自に考えていた事だし,相手の研究も聞いてみたら十分に独立した(異なる)研究だったし,それ以上の問題に発展する事はなかった.

ところで,真似をしているんじゃないか,という非難が終わった後も,相手の言い分を「素直に」聞いていると,言いたい放題で,あげくには,僕は何も考えおらず上の人達に言われるがママに研究しているとか,いろいろと研究姿勢が気に入らないとか言い出す始末.

研究に関わる一つ一つ作業は1人で黙々とこなすような事が多いし,その研究に関わっている人以外はそれぞれがどの様に貢献したかは見えるものじゃない.

僕はそう思っていたから,研究姿勢について言われても,憶測を言われているだけだと思い,怒りもせず(憶測であれだけ言われたら怒れ,という気もしなくはないが),ただ「全てのアイデアが僕の発信ではないけれど,少なくとも実験や解析の具体的な作業は自分が提案したことだよ」とだけ伝えるが,おさまらない様子.

その友達は,前々から,僕が飄々とうまく立ち回っていて気に入らない,と思っていたようで,研究パクリ疑惑がきっかけでそういう関係無い不満まであふれ出した様子だった.

この件は,相手に大学院生特有のいろいろな不安がこんがらがっていたらしい事は垣間見えたので(自分が大学院生でしたからね),仕方のない事とやりすごした.話を聞きながらマイッタナァとは思ったけれど,不思議なほどに怒ったとか悲しかったとかいう感情的な記憶はない.

ふと思い出す事があったので書いた.

PS.
もちろん,その友達にとって「うまく立ち回っている」ように見えただけで,僕にだっていろんな衝突や葛藤があったは言うまでもない.だれだって,たぶんそう.

2010年11月2日火曜日

科学的根拠はありません.

※下記,単なる思いつきと思いつきの比喩表現です.科学的根拠はありません.

もう11月ですね.ここ2,3ヶ月は,ずっと,いろいろと終わらなくて泣きたい気分です.もちろん,終わらせた事も多々ありますが,それに対しての充実感がないというか...

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科学リテラシーという言葉がありますあるそうです.自分のいる分野だと神経神話というが流行っているらしく,なおさらリテラシーが必要だとか.

リテラシーは主には情報の受信者側についての問題として語られているんですが,神経神話に関しては,情報の発信者に対しての批判も大きいようです.いろんなところで神経神話に警鈴を鳴らし続けている方々もいます.

警鈴をならす事自体は,良いと思うんです.ただ,鈴の音が後ろ向きというか,他人をよせつけないような排他的な音色に聞こえてしまうのは僕だけかな!? 個人的には,生理学を中心とする今の日本の神経科学業界は,かなり閉鎖的だなぁと感じているので,その印象と重なってしまいます.

やるならば,「まちがったことを言っちゃいけない」,「正確に言え」と言うのではなく,「本当はこうですよ」「こう表現するのが正確ですよ」と後からいちいち訂正してあげるのが,良い方法だと思うんです.やるならば.

「科学的根拠を宣伝文句にする商品には文献情報をつける」といった提案はちょっと勘弁して欲しいなぁ.あーしなさい,こーしなさい,と言われる社会はかなりイヤだ.殺生するな(主に人間に対して)とか最低限の「してはいけない事」をみんなできめたら,あとは勝手にしたら良いと思うんです.

あと,情報を発信する側の「倫理」や受信する側の「教養」の問題で,手続き(制度)に還元して解決するのはまちがいじゃないかな.倫理や教養を育てるのは,やはり基礎教育の問題で,長い時間をかけて解決する問題ではないでしょうか.

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Webが,正確な情報が1つ増えるために万のクズ情報が飛び交う場だとしても,僕はWebを歓迎します.

というか,そもそも,正確な情報が1つが生まれるためには,万のクズ情報が必要なんだと思うんです.新しい情報ほど,まわりにクズ情報がびっしり張り付いているもんだと思うんです.そのうち,みんなでクズ情報を洗い流して,誰でもその正確な情報にたどり着けるようになる,というのが,情報が流通する構造ではないでしょうか.発信する事自体が目的である場合も多々あるし,その場合は内容なんてどうでもいいわけです.多かれ少なかれ,みんなそういう内容の無いコミュニケーションを必要としているでしょ.僕の雑談のほとんどは3分記憶する価値もないクズ情報.

基本的には,現象を理解するにはたいていは背景となる知識が必要で,ジャーゴン(術語)を使わないなら,それらを全部説明しなくちゃいけない.発信する側にそれを求めるのは,無理でしょう.専門家は黙るしかなくなっちゃう.

それよりは,とにかく何かを発信して,何かを受信する事が重要です.そのうち,専門家と専門家でない人達の間に新しい言語を作られるでしょう.それがコミュニケーションだと思います.一般に使われる新しい言語が,専門家コミュニティと違うからって,専門家はひがんじゃいけないw.コミュニティが違うんですから.フランス語より英語の方が正しい,とかはないのと同じだと思います.

##

僕の個人的な体験では,初対面の人でも,自分が脳とか認知科学を研究していると伝えると,相手から脳の話題を切り出してくれることが頻繁にあります.僕はその人の知っている間違いを起点にして,(たぶん)正解に誘導してあげられる.話しが盛り上がる.「脳って何? 難しい事やってるんですね...」で終わってしまって何にも起点がないと,それを探すのにとても時間がかかりますよね.そういう点では,ちまたで活躍される脳科学者の恩恵を受けてます.

ということで,TVでの脳科学者のお話しであろうが,学会での神経科学者の講演であろうが,居酒屋での酔っぱらいの与太話であろうが,脳の話しをしてくれる事に当事者として歓迎します.

PS.
こういう問題に興味のある方は,この本,必読では.ある生物に関する科学的な報告書.
「鼻行類—新しく発見された哺乳類の構造と生活」Harard Stumpke 著, 日高 敏隆, 羽田 節子 訳. 動物学者でケンイある日高さんの訳本です.

追記: 2010 Dec. 7
弁護士の方(この人は科学と法律の関係の研究もしているらしい)と話したら,法律に関わる人は強かだと.裁判で勝つためなら,科学的ではないと知っていても,巷で科学らしき事と認識されていたら,それはどん欲に利用すると.うーむ,どうなんでしょう.この方は,これ以上の意見を言われたわけではありませんが,悪用される事を制限するために情報発信の手続きを面倒にするのはちがうかなぁと.やはり悪用されている事を防げばいいわけで.