2010年9月4日土曜日

予測か推定か.


久々に研究に関連した話しを.

予測|Prediction と 推定|Estimation,つい最近まで僕の中で言葉の使い方は随分曖昧でした.どう使い分けますか?

【予測】
将来の出来事や状態を前もっておしはかること。また、その内容。科学的根拠が重んじられる。
「 大辞林」
将来どうなるかを得られた情報などに基づいておしはかること。また、そのようにして得たもの。「予想」は将来を推測する意で広く使い、「予測」は具体的なデータなどに基づく意で使うことが多い。
「明鏡国語辞典」

【推定】
①周囲の状況や情報に基づいて、おしはかって決めること。推測決定すること。また、そのようにして得たもの。 ②法律で、明瞭でない法律関係または事実関係について、否定する反証が成り立つまで、それを正当なものとして扱うこと。
「 明鏡国語辞典」
(1)はっきりとはわからないことをいろいろな根拠をもとに、あれこれ考えて決めること。 (2)〔法〕 明瞭でない法律関係・事実関係について一応の判断を下すこと。 (3)〔数〕 統計で、ある母集団から取り出された標本をもとにその母集団の平均・分散などを算出すること。 (4)文法で、何らかの根拠をもとにあれこれ考えて断定する意を表す言い方。口語では助動詞「らしい」、文語では助動詞「らし」を付けて言い表す。
「大辞林」

「予測」に関しては,未来の事に対して使うという感じは持っていましたが,一方で,「推定」は,静的な事に対して使うというような感じは持っていました.例えば,「状態」に対して使うとか.ただ,推定と使うところを予測としても良いような気はしていた.

脳の情報表現と行動の2つの「予測(推定)」が登場する場合に,どちらか片方だけを使うと文章を読んでいてわかりにくくて,使い分けたかった.それで,自分の研究を説明する時には,感覚的に,行動については「予測」,脳活動で表現されている事に対しては「推定」と,使っていました.そんな話しをしたら,観察可能な事に対して「予測」と使い,観察不可な事に対しては「推定」と使うという議論をしたことがあったと教えてもらい,あぁー,なるほどと.僕にとっても,腑に落ちる説明でした(僕の感覚的な使い方も,偶然,それと同様の使い方にはなっていたのですが).

この説明で使い分けると,ヒトや動物の行動については「予測」,その時の脳活動の情報表現については「推定」となる.ただ,脳活動とは言っても,神経活動の発火率やBOLD信号は,観察可能なので,「予測」を使うのが良いのでしょう.fMRIのデコーディング研究で言うと,Tong et al., 2008 はBOLD信号を「予測」することが研究の主であったし,Miyawaki, Uchida et al., 2008 は情報表現を「推定」することが研究の主だったという違いがありますね.

僕は,脳活動の「予測」にはほとんど興味がなくて,脳の情報表現の「推定」に興味がある. 特に,認知行動レベルの情報表現について興味がある.ちなみに,脳の情報表現の「推定」に関しては,どこまでいっても「推定」しかできないというのが,認知行動レベルにおける脳科学の難しさでもあるんでしょう.「推定」だけだと,その性能を評価できませんから.書いた勢いで,ちょっと皮肉を言えば,「脳活動を計測すれば,それまでの心理学では分からなかった事がわかりそう」と思っている無垢な方々などには,その辺の誤解があるのかな,と思ったり,思わなかったり.

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