2009年2月11日水曜日

【論文】マカクザルの脳活動から予測したヒトの側頭葉前部の顔選択的活動部位

 
An anterior temporal face patch in human cortex, predicted by macaque maps,
Rajimehr R, Young JC, Tootell RB,
Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Jan 28


側頭葉に顔に選択的に活動する部位があり,nonhuman primates(nhp)の研究では,側頭葉の前(anterior temporal face patch, ATFP)と後ろ(posterior temporal face patch, PTFP)の2つに顔選択的な部位があったのですが,ヒトではFFA(fusiform face area)が知られているだけでした.このFFAはnhpでの後ろ側であるPTFPに対応するのだろうと思われていますが,では前側のATFPに対応するヒトの脳部位を同定しようというのがこの論文の主題.マカクザルとヒトで同じタスクを用いたfMRI計測をおこなって,脳の対応関係をみたところ,ヒトでもATFPに対応する部位が予測できたということです(Fig.4.).

側頭葉の前側は,最近のPET研究では有名人やよく見る顔で活動することが報告されているのですが,fMRI研究などでは見逃されていることも多い.その1つ目の理由は,側頭葉の前側が担っているのは顔認知の周辺的な情報だからだろうと.ここは有名人や近しい人の顔を見たときに活動する部位で,社会的な関係(特徴)の情報を持っているのではと言われているようです.2つ目は,fMRI計測ではSNが悪いところで有意な活動が出にくいんだとか.この部位はだいたい耳の横にあるのですけど,脳と骨の間の空洞が大きい部分なのでSN比が悪い(Fig.S7).

頭頂葉の顔選択部位(parietal face patch, PFP),前頭葉の顔選択的部位(frontal face patch, FFP)の対応も少し議論されています.前頭葉にあるFFPは,ヒトではPCG(precenral gyrus)なのではないかと.


この論文の論旨とは関係ない感想なのですが,FFAは精通している視覚刺激に選択的(たとえば,羊飼いは羊を見てもFFAが活動する)とも言われているのですが,僕もそうなんだろうと思っています.普通の物を見るアルゴリズムとどこが違うのかなぁという疑問がいつもおもうところで,最適性の程度が違うのかなと思っています.あと,他の部位と相互結合があって視覚以外の付加的な情報と関連づけられているのが,この部位なのかなと妄想しています.

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 ヒト10人とサル2頭でfMRI計測しています.タスクは顔(集合写真のようなたくさんの顔が写っている画像)と場所(室内の画像)を使って,被験者は固視点から目を動かさずに画像を受動的に見ているだけ.ちなみに,集合写真を見せた方が顔に選択的な活動を検出されやすいみたいです.もう一つ,顔(1人の顔)と物を見せるタスクもやっていて,Fig.5でその結果を見せています.
 脳活動の解析では,ヒトとサルの脳活動の対応をとることが目的なのと,上記でも書いたようにATFPは普通に解析したのでは有意な活動が見えにくいので,統計的に有意に出やすいように大きめの範囲で平均を取ってから検定にかけています.


FIg.1.
A,B.monkey Jとmonkey Rの脳活動.赤-黄色が顔選択的に活動している部位,シアン-青が場所選択的に活動している部位.左下が後頭葉で,右に行くと側頭葉,上に行くと頭頂葉から前頭葉.Cはmonkey Jの前頭葉を横から見た図(上が右脳,下が左脳).

Fig.2.
ヒトの個人毎の脳活動,4人分.

Fig.3.
ヒトの被験者10人の平均脳活動.解析で有意な活動が出やすくなっているので,一般的な解析より側頭葉の下が広く活動しています.

Fig.4.
サルとヒトの脳活動の対応をとった結果です.対応の取り方は,Caretというソフトウェアを使っているようです.アルゴリズムとしては,脳の溝で主要な部分を対応点として,サルとヒトのそれぞれの脳を中間的な脳の形に変形させています(cf.The visual neuroscience のOrganization of visual areas in macaque and human cerebral cortex. David C. Van Essen(PDF)の章,Fig6を見るとわかりやすいです.ちなみにこの本,手元にあるのですけど,このページは白黒なんですよね.pdfで見るとカラーになっているので,そっちの方が見やすいです.).
Aがサルの脳活動,Bがヒトのアトラスにのせたサルの脳活動,Cがフラットな脳の図にのせたヒトの脳活動,Dはヒトの脳活動.赤矢印がPTFAもしくはFFA,緑矢印がATFA,青矢印がFFP.
サル,ヒト共に3カ所活動しているのがわかります.

Fig.5.
顔と物のタスクでの脳活動.A-Eがヒト,Fがサルの結果.これでも側頭葉の前と後ろで活動しているのがわかります.
 

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