2008年11月25日火曜日

【論文】実験課題の繰り返しによる神経活動の抑制は知覚の予測を反映している.Summerfield2008

Neural repetition suppression reflects fulfilled perceptual expectations.
Summerfield C, Trittschuh EH, Monti JM, Mesulam MM, Egner T.
Nat Neurosci. 2008 Sep;11(9):1004-6.


概要
fMRI研究において,繰返し抑制(repetition suppression)という同じ刺激を繰り返すと神経活動が抑制されるという現象がよく知られているのですが,そのメカニズムを明らかにしようという論文.これまでにいくつかの仮説が示されており,経験した特徴が強調した表現に変化するという強調化(Sharpening)の効果だとか,疲労による神経活動の鈍化だとか言われてきました.この論文の著者らは神経活動の抑制は予測符号化仮説(Predictive coding theory)における予測誤差(Prediction error)が小さくなっていることを示すのではないかと言っています.結論としては,神経活動の抑制のすべてを予測誤差の減少で説明できるわけではないが,予測誤差の減少が繰返し抑制の原因であることを示している.

Figure 1
基本的には,この論文の結果はここの3つの図に表現されている.Figure2はFigure1の補足的実験.
a fMRIの実験タスク
実験課題はRep試行,Alt試行,Target試行の3種の試行からなっていて,それがランダムな順に出てくる.すべての試行は,最初の顔が250 ms間表示され,その後500 ms間の空白画像が表示され,最後に2つ目の顔が250 ms間表示される.試行間には2−4sの時間がある(rapid event-relatedでfMRI計測していると言うことですね.).Rep試行は最初と2つ目の顔が全く同一,Alt試行は異なる顔,Target試行は2つ目の顔が逆さ顔になっている.被験者は2つ目の顔が逆さ顔だったらボタンを押します.つまり,Target試行の時にボタン押しがされるのですが,この試行での脳活動は解析に必要なく,被験者がきちんと実験課題をしていることを確認するための試行.

そして,実験課題は2種類のブロックからなる.Rep試行が75%(Target試行を除いた試行数の)の確率で出てくるRepブロックと25%のAltブロックの2種類.

つまり,2種類の試行とその試行の出現確率が異なる2種類のブロックで実験課題は構成されています.

実験パラダイムの論理としては,
Repブロックでは,
→ 2つ目の顔が最初の顔と同じである確率が高い.
→ 被験者は2つ目の顔を最初に出た顔だと予測するようになる.
→ 同じ顔が出るRep試行では予測誤差が減少する.
→ もし,繰返し抑制が予測誤差を反映するとすれば,
   相関してニューロン活動の低下が観測できる.
という事.

b
側頭葉の領野の1つであるFFA(Fusiform Face Area,紡錘状顔領域)を別のタスクで同定していて,つまり顔に選択的に活動するfROI(functional Region of Interest,機能的関心領域)で解析する脳活動を特定している.4つある脳活動の図の内,左の2つは16人のFFAsを重ねて描いた図で,右2つはグループ解析をして被験者共通に活動していたFFAsを描いた図.

c
bで特定したFFAsの脳活動を比較しており,左の2つの棒グラフはRepブロックの結果を示していて,右2つはAltブロックの結果を示している.白の棒グラフがRep試行,灰色がAlt試行.

見るべき結果は次の2つ.
結果1.RepブロックではRep試行がAlt試行よりも22%だけ脳活動が減少している.
結果2.両ブロックでのRep試行を直接比較すると,「RepブロックでのRep試行」が「AltブロックでのRep試行」よりも小さくなっている.
(結果2の補足1.)AltブロックにおいてはRep試行の減少は9%だけである.
(結果2の補足2.)試行とブロックの2x2の分散分析の結果,試行間には主効果があって,比較するとRep試行がAlt試行よりも有意に小さく,ブロックに関しては主効果はない(ちなみに,解析の順序としては,もちろん分散分析を先にやって試行間の主効果のあることが認められた後,試行間での比較を行っている.論文の本文でも結果2は結果の2の補足1.2の後に書かれている.)

つまり,被験者の予測通りであり予測誤差が小さくなるRepブロックでは,実際に同じ顔が繰り返されるRep試行(繰り返される試行)で脳活動の低下がある(結果1より).しかも,同じRep試行でもAltブロックの場合よりも小さいので,単にRep試行であるから脳活動が下がっているというのでは無い(結果2より).

このことから,繰り返し抑制は予測誤差の減少を反映しているのだろうという結論になる.

AltブロックにおいてもRep試行で減少が見られるのは,基本的にヒトは最初の顔が2つ目にもでると予測するからでしょう.ちなみに,この実験では2つの試行で同じ顔は使われないので,予測するとすれば最初の顔を予測するしかない.

RepブロックでのAlt試行は,顔が繰返されるRep試行が多い中で異なる顔が出てくるわけで,予測誤差が大きくなって,「Alt試行 In Repブロック>Alt試行 In Altブロック」となるかと思ったりしたけど...そうはならないな.Alt試行はどちらのブロックでも出てくる2つ目の顔と被験者の予測は異なるわけで,異なり具合(予測誤差)は同程度なのでしょう.もし,「Alt試行 In Repブロック>Alt試行 In Altブロック」だとしたら,予測誤差ではなく,予測と異なるかどうかの2値が表現されているとも考えられたりしないだろうか?まぁ,それだと,両ブロック間でのRep試行は同じ値になるから,この論文の結果は説明できないのだろうけど.

Figure 2
a
Figure1が顔認識における予測誤差であることを示すために,試行における最初と2つ目の顔の大きさを変化させて行っている.Rep試行とAlt試行では,2つの異なる大きさの顔が用意されていて,小さい顔は大きな顔を15%減少させた顔.大きい顔が最初に出ることもあるし,小さい顔が最初に出ることもある.Target試行はサイズ変化が60%になっていて,急激に拡大するか,縮小したら被験者はボタンを押す.

b.c.
見方はFigure1と同じ.ただ,cで「Alt試行 In Repブロック>Alt試行 In Altブロック」となっている.この結果はどう解釈するんだろ?予測誤差は平均化されて両ブロックで変わらないという事にしているのだろうけど,最初と2つ目の顔の誤差(予測誤差)は定義できないから厳密には統制が取れていないわけで,その影響があるのかな.
 

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