2009年11月5日木曜日

比べること.

 
物理学とは,現象を相対化する科学である.

まず,物理学とは何か?
ある現象が不思議という研究者の主観があってその
次に,その現象は特に不思議ではあるけれど,他にも
原理的に同じものがあることを実験的に示すこと.そ
して,最初に不思議と感じた現象は,それら一群の現
象中の一つにすぎないことを理論化すること,すなわ
ち現象の相対化である.
沢田 康次: (2009) 脳の現象論と物理学 , 日本神経回路学会誌, Vol. 16, No. 3, pp.126-127 . (PDF)

映画イル・ポスティーノで,郵便配達のマリオが「世界全体が何かの隠喩になっているのですか?」と詩人のパブロにたずねる場面が思い出された.

脳機能を数理的な表現で書きくだす事は,脳機能と数理的表現を相対化している,と言っても良いのかな.

巷で,脳科学者が,専門家でない方々に脳機能を擬人化して説明したとして,それは仕方のないことだよね,と思っている.たくさんの人に説明するなら,たくさんの人に共通する卑近な例で「相対化する」のは当然かな.正確な表現ではないからと言って,会話をやめてしまうのは,あまりに閉鎖的すぎるので,外部に向けて非正確な表現を恐れずに語れる人はコミュニティーに一定数必要でしょう.

僕は,ポスター発表で知らない人に説明する場合に,いつも僕から聞きに来てくれた相手にどんな研究しているのか,学生の方だったら学部や研究科を,逆に質問してしまう.相手が持っている言葉がある程度推測できないと何からしゃべって良いか分からなかったりします.もちろん,こちらにもしゃべりたい言葉があるので,後からこちらの言葉を理解してもらうようにもがんばります.

専門家のコミュニティー内では正確に表現することが,第1優先だと思っている.だから,無用に相手に合わせるだけが能ではないでしょうけどね.何かのアルゴリズムを説明しているときに,「直感的に説明して.」とか言われると少しカチンとくるので,ホワイトボードに数式を書いて,コレです,と言うことにしてる.一方で,僕も生理学や心理学の術語を無邪気に使ってしまう癖があるので,それに気をつけている.

そうそう,
相対化するものを持たない人は理解できないんですかね?
そうだとしたら,脳科学者は,脳だけを見ているわけにはいかないですね.そうだとしたら.

PS.
何か1つと相対化したからと言って,さらなる相対化をやめてしまったら理解は深まらなさそう.できるだけ一般的で正確な表現と相対化できるようにがんばらないとですね.

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