2009年7月5日日曜日

【論文】覚醒ザルの第一次視覚野における知覚抑制中のfMRI(BOLD信号)と神経活動の相違

 
Divergence of fMRI and neural signals in V1 during perceptual suppression in the awake monkey. Alexander Maier, Melanie Wilke, Christopher Aura, Charles Zhu, Frank Q Ye, David A Leopold. Nature Neuroscience (2008) vol. 11 (10) pp. 1193-200

とある論文抄読会で紹介してもらって,重要だと思ったので自分でも読んでみた.昨年の論文.

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ヒトを被験者としたfMRI計測では知覚抑制に応じてBOLD信号の低下が見られるという研究と,サルの活動電位を計測では知覚抑制による低下が見られないという研究があり,矛盾がありました.そこで,この研究では知覚抑制が起きる実験課題で,2頭のサルで,fMRI,単一細胞活動計測,Local Field Potential(LFP)の3つの計測をおこなって,その矛盾の原因に迫っています.

結果からいうと,fMRI,単一細胞活動計測では先行研究の結果が追認されていて,つまり知覚抑制中のBOLD信号(fMRI)の低下はあるけれど発火率(単一細胞計測)に低下は確認されなかった.先行研究での矛盾は,ヒトとサルの種の違いではなく,計測方法の違いによる影響だろうという結果.

BOLD信号が計測領野への入力信号を反映していて,発火率が細胞からの出力信号を反映している違いによるのだろうという考察がされています.知覚抑制はV1以上の高次視覚野で表現されていて,fMRIではその信号のV1へのフィードバックが反映されているのだろうと.また,LFP計測では試行内の時間発展を解析すると周波数帯域によって知覚抑制による信号の低下具合が異なっていて,主に低周波帯域では低下が見られるたという結果がわかるのだけど,ブロック単位(複数試行)での解析では知覚抑制による差がはっきりしないようで,この事からfMRI計測(ブロック課題)のBOLD信号は単純に神経活動を時間的に積分しただけではなさそう,という考察がされています.

ちなみに著者の最後に名前があるLeopoldはLogothetisと一緒にやっていた方.

それでは以下に図を中心に詳細の説明.

Figure 1
Generalized flash suppressionという知覚抑制を用いています.これは,ランダムドット背景に固視点とそれとは別の視標(図の赤視標)を提示し,両眼で見せておいて,片眼の視標を消すと(もう片方では見えているのに)視標が見えなくなるという課題.
a. 4つの実験課題を行っていて,1つ目は知覚抑制が起こる課題(INV課題),INV課題において本当に視標を消してしまう課題(OFF課題),両眼共にずっと視標を表示している課題(VIS課題),課題試行の終盤に,ランダムドットが消えて視標のみの期間1.5 secがある課題(VIS_TR課題)(対照実験として,固視点だけ表示されている課題(FIX)もある).1試行は6秒.
b. FIX課題を含め5つの課題を時系列にした系列ブロック方式(Sequential block mode)と,4つの課題をランダムに並べて課題間にはFIX課題を行うランダムブロック方式(Randomized block mode)の2つのブロック課題で計測を行っています.
c.脳活動計測とは別に,知覚抑制課題で見えているかどうかをレバーで回答させる行動実験を行っていて,その結果.VIS課題,VIS_TR課題では80%以上の試行で視標見えていると回答したけれど,OFF課題では当然ながら数%のみ.そしてINV課題も知覚抑制の影響でVIS課題,VIS_TR課題に比較してとても見えたと回答した試行が少ない(グラフを目測するに20%程度).

Figure 2
BOLD信号の結果.
a.Localizer Taskで特定されたFigure 1で説明した第一次視覚野の視標に関連する部位.上が1頭目のサルで,下が2頭目サル.
b.aで同定された部位における,各課題でのBOLD信号変動率を表示した結果.FIX課題の平均BOLD信号を基準にその値からの変動率.aと対応して,上が1頭目,下が2頭目.
FIgure 1のcにある行動実験と対応して,VIS課題, VIS_TR課題が大きく,OFFは小さい.INVはその中間くらいの値になっている.先行研究と同じく,知覚抑制の影響による信号の低下が見られる結果.

Figure 3
単一細胞活動計測の結果.
a. Figure 2で同定した視標関連部位の神経細胞から記録した結果.Figure 2のbと同様に,各課題中の比較が示されているが,これまた先行研究と同様,単一細胞計測(緑線)ではOFF課題でのみ低下している.ちなみに視標関連部位以外(脳の絵をはさんで右側の図)の神経細胞では,当然ながら,4つの課題の信号では変化ないように見える.
b.左は比較のためfMRIでの変動率結果を表した棒グラフ(Figure 2のbは全試行の結果が表示されているが,ここでは各課題の平均),右が発火率の変動率.発火率の変動率の図では,4つの課題ではOFFのみが小さくなっている(INVで変化していない(もちろんこの仮説検定からそれは言えないけど)).

Figure 4
(書くのにつかれてきたので,Cだけ説明)
Cの上段はINV課題からVIS課題を引いた結果,低周波数帯域でパワーが減少している.下段は,OFF課題からVIS課題を引いた結果で,全周波数帯域で減少している.

Figure 5
低周波数帯域のLFP(a),高周波数帯域のLFP(b),単一細胞の発火率(c)の時間発展を見てみた図.低周波数帯域の知覚抑制期間でVIS(黒),VIS_TR(灰色)とINV(橙色)に差がある.

Figure 6
各計測での抑制指標(抑制による信号の低下率)の値の図(抑制指標の式を見つけられなかったのだけれど,Figure 6の図説から推測するに(INV-VIS)/(OFF-VIS)か!?)

Figure 7
これまでの結果をまとめた図.説明は省略.
 

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