Amemori & Graybiel. (2012). Localized microstimulation of primate pregenual cingulate cortex induces negative decision-making. Nature Neuroscience.
誰かに論文紹介できるくらいには読んで,いつも参加させてもらっている医学部の研究室での文献紹介にて紹介した.ただ,検索したら,こちらに日本語で内容が書かれていたから,研究内容についてはそちらをごらんあれ.新着論文レビュー FirstAuthor's 「マカクザルに対する前帯状皮質の前部への局所的な微小電気刺激は悲観的な意思決定を導く 2012年5月2日」
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用いられる解析方法(&実験設計)は,「報酬系と意思決定」というテーマで,かつ電気生理学研究としては,1つの極.とっーても洗練されてる.これまで断片的に採られてきた先端的な方法が網羅されてる.行儀良く巨人の肩に座った研究.お手本.
2択の意思決定課題なので,Conflict を意思決定行動のエントロピー(情報量)と定義するのは,ちと大仰.この研究だけを見た生理学の人からは,「なんでこんな面倒な解析をするのか」という声も聞こえそうな気はする.だけど,今後,もっと選択肢が増えた複雑な状況に拡張するには,妥当な方法でしょう.
情報学や工学の人にとったら,何ら目新しい方法ではないけれど,実験科学の研究にきちんと適用するのは,それはそれで相当に大変.この研究は,適用するための細心の注意が払われていると思う.脳研究は,世界全体からすれば,重箱の隅をつつくようなことだけど,重箱の隅をつつくのも大変.隅をつつくのに,スプーンじゃ無理だろう? たぶん,箸だな.そんでもって,箸をうまく使わないといけない.
ところで,検証するのに技術的に可能かどうかの際(キワ)を攻めた研究はイイ研究だと思うけど,Nature,Scienceに掲載されるには,Reviewer(この論文だと生理学者) に理解されるかどうかの際が重要だったりする,たぶん.その点でも,この論文は,生理学者の理解の際の内側にきっちりと納めてるのが見事な感じ(こう書くと高慢かな.科学も社会的な営みで発展しているので,他の誰かに理解されなきゃ価値はないと見なされちゃうわけで... そういうことを考慮するのも多少は必要でしょう).
逆に言えば,実験家といえども,ここで何を計算しているかわからなかったら,さすがに不勉強と言われても仕方ないよね.だって,(たぶん)大学院では実験の訓練を受けてない理論の人が,ここまでの実験を行うんだからさ.実験は,神経活動の記録,微少電流刺激,投薬実験と行われていている.実験条件のパラメータ(報酬量と罰の量)も連続と言っていいほどで,多くの条件で実験されいる.記録している神経活動の数も一般的な場合より(たぶん,倍くらい)多いんじゃないかな.かなり読みごたえアリ.
個人的には,Behavioral patterns とか Firing patternsとか pattern という情報学にも親和性がある単語が使われているのが,あとからじわじわくる.pattern という単語が使えるほどに,実験条件のパラメータをふっている(連続にしている)ってことだし.じわじわ.
認知神経科学とかシステム神経科学の中の人,全員に,精読をおススメする論文です.自分が研究している領野だとか機能だとかに関係無く,参考になると思う.fMRI研究をしている人にも,解析方法が見慣れているはずなので,理解しやすいはず.
PS.
2年前だかにclosedなセミナーで,聞いてたはずなのに,さっぱり覚えていなかった(図だけはおぼろげに記憶あり).というか,その後に予定されてた自分の発表が気になって,たぶん,上の空で聞いてた.文献紹介で紹介したけれど,さらに精読すれば理解が深まりそうなので,もうちょっと読んでみたい.Supplementary は,紹介するのに必要なところしか読んでいないし.
PS. PS.
前回紹介したのもそうだけど,方法としては極みと言っていいのに,それでもこの程度.あー,科学って地道.1つの論文で心躍るほどにスゴイってのはないなぁ.脳の研究って,その点ではつまらない.
PS. PS. PS.
Pregenualという単語を知らなかったのでメモ.genual はgenuの複数形.pre(前)+ genu(膝,ここでは脳梁膝の意味か).ACC か Cingulate cortex が後にくる場合でしか,使われてないようす.タイトルで前帯状皮質前膝部と訳したのは,造語.一般に使われているかどうかは知らない.